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1 二人の名前 ~Wname~
日が落ち、夜が更けて家の中が静寂に包まれたころ、その話は始まった。
始まる前に父さんが酒を持ってきた。
なんでも酒が入らないと饒舌、と言うよりは上手く話せないのだという。
父さんが酒を一口飲み、まるで遠い昔話を思い出すかのように語りだした。
「さて、話は宙が生まれる前からでいいのかな。」
僕は母さんを見て、母さんは黙って頷き、僕も父さんに向かって頷く。
「父さんは母さんと出会って、付き合って、結婚した。それからして、最初は二人きりの生活は慎ましいながらも細々と暮らしていた。今も幸せだが、あのときにはあのときにしかない幸せがあった。そこにまた俺たち二人にとって喜ばしいニュースが舞い込んできた。母さんが妊娠したというな。」
そこまで言うと父さんは酒を煽り、母さんを見て視線を戻した。
母さんはそのときのことを思い出しているのか、嬉しそうな顔をしている。
僕の頭の中でも兄さんは黙って聞いている。
僕も兄さんと同じように黙ったまま、父さんの言葉を待った。
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