956人が本棚に入れています
本棚に追加
「駄目だ、加奈。こいつ、またどっかに飛んでるよ」
人聞きの悪い事を雅人が言い。
それに加奈が大きく頷いた。
「それよりさ。さっきの港にいた漁師さんの話し!」
嬉々とした含みを保たせ、声が踊っている。
「鬼女島伝説。いよいよ本格的だね」
雅人に話しているのだろう。
もう此方は向いていない。
俺は二人のやり取りを聞きながら。
先程、船に乗る前に会った漁師の事を思い出していた。
「あんたら。あんな所に行くのか?」
漁師は話しを聞くなり怪訝な顔をした。
「うん。あのね…」
口を開き始めた加奈の言葉を遮るように俺は少し大きな声を出して、代わりに答えた。
「えぇ。イベント企画に当たったので」
それに漁師は不思議そうな顔をして、
「…成して皆そうも、あんな島に行きたがるのかねぇ」
島の有る方角を見やった。
晴れているためか、うっすらと島の輪郭が見て取れる。
「皆?」
そう訪ねると漁師は深く頷いた。
「最近多いんだわ。あんた方のようにあの島に行きたいんだって、人」
呆れたような口調。
「だけども、そのお陰で町は潤ってるから、良いだけどな」
何が言いたいんだろう?
そう思うと漁師は、更に不思議そうに顔曇らせ、
「けんど、皆。行ったきりで、いつ戻って来てるんか…」
そこまで言って、漁師は目を細めてまた島を眺めると。
そう、呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!