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「と、父さんじゃないか」
私は口を金魚のようにパクパクしたまま、父の口調を真似た。
「ああ、この子が」
父さんの隣に座っていた、ノンフレームのメガネをかけている男性が優しげに笑う。クスクス、二人は笑うのを我慢するようにしている。ムッとした。何よりも、今は試験中だ。
「面接、始めないんですか」
私は今できる精一杯の笑顔で、二人に告げる。
「ああ、もう帰っていいよ。試験はおしまい」
父さんは無情にもそう言う。やだ、面接でしか挽回のチャンスは無いというのに。いつの間にか握った拳が震えた。また、落ちるんだ。私は唇をかむ。
「気をつけて帰るんだよ、空」
私は立ち上がると、父さんを睨みつけた。
「ありがとうございました」
ネチネチ、イヤミったらしい口調でそう言って。
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