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私はぐったりと肩を落とし、玄関のドアを開けた。築15年という私と同い年の家は、ギィイと憂うつな音を立てる。
「……ただいま」
言葉を出すのも億劫だ。面倒くさいとばかりに靴を脱ぐ。黒い革靴は新しいせいか、私の足をぐうっとしめつけていたようで、脱ぐとほっとした。
「おかえり、空」
母さんが赤いギンガムチェックのエプロンに身を包み、ぱたぱたとリビングからやってくる。
「犬の散歩、行ってきて」
「はあ?」
私は母の言葉に明らかな嫌悪を示す。だって私は受験生で、明日は最後の受験日。第1志望はおろか滑り止めまで落ちた私の、最後の砦だというのに。
「息抜きも必要よ」
はい、と青色の綱を渡され、私は制服のまま勉強道具だけを玄関に置き、家の外へ出された。ボロボロの茶色い運動靴。私は、はっはっと尻尾を振る松次郎を見下ろした。
「……私は切羽詰まってるんだぞ」
首輪についた、小屋と松次郎をつなぐ綱を外し散歩用の綱をつける。松次郎はわーいと駆け出した。
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