一生の不覚

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   *  私はすぐに、色々と用意を始めた。学校が全寮制なので、細々としたものが必要になる。 「このキャリーケースかわいい」  私は荷詰めできるカバンを手にとった。黒地にピンクのドット。私はすっかり気に入った。 「これにする、母さん」  にっと笑い振り返ると、母さんはゆるゆる首をふる。 「シンプルな方がいいわよ」 「なんで?」 「ずっと使うものだから、飽きないデザインがいいわよ」  母さんはそう言うと、いかにも多機能だけどデザインは置き去りなカバンを指差す。私は顔を歪め、嫌な顔をした。でも母さんは態度を変える素振りもなく、そのカバンを手にする。 「はいはい、わかりました」  私はしぶしぶ、そりゃもうしぶしぶ受け取った。 「地味……」  こうして準備は着々と進んでいく。まだ、大きな間違いに気づかずに。
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