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「さあ降りて。入寮式が始まるわ」
母さんは慌ただしく私と私の荷物を降ろすと、じゃあ明日の入学式でね、と帰ってしまった。なんという薄情。私はキャリーバックを横に、ぼうっとするしかなかった。だって、入寮式と言われても、どこに行けばいいのかわからない。これ、ドッキリ?
「あ、もしかして……空?」
ふとうしろから、可愛い声が聞こえた。聞き覚えのあるもの。振り返ると、私と同じ制服に身を包んだ、晴依がいた。
「晴依!」
「やっぱり空だ!」
キラキラ太陽に負けないくらい、整った顔立ち。晴依はキャリーバックをガラガラ、音を立てて転がす。
「助かったー」
私はズボンの制服を着ていてもちゃんと女の子な晴依をうらやましく思いながらも、安堵した。
「どこ行けばいいかわからなくて困ってたんだ」
「じゃあ僕が連れて行ってあげる」
晴依はぽんと胸をたたくと、私の左手を握った。ふんわりいい香り。自分のことを「僕」だなんて、なんか可愛いなぁ。私はますます晴依に憧れに似た感情を抱きながら、歩き出した。
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