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父さんはピシッと黒のスーツを着こなし、いつもの父さんとは違って見えた。
「……男子校だなんて聞いていない」
私は父さんから視線を外し、こみ上げる気持ちを抑え話す。
「知らなかったの?」
父さんは心底驚いた調子。なにそれ。
「受験のとき、男しかいないから気づくと思った」
……確かに男だらけだった。で、でも、誰が男子校を受験すると思うか!
「まあ入学すると言ったのは空なんだから、卒業まできちんと通うんだ」
「ちょ、それは無理」
思わぬ父さんの言葉に、だあっと冷や汗。
「だめだめ、卒業しないと」
「一人娘を男子校にいれて楽しいの?」
父さんは腕を組んだ。
「全くもって楽しくないが、仕方ないのだよ」
「は?」
父さんは額にしわを寄せると、嫌そうに言う。
「じいさんの遺言でね……」
「いやいや、じいちゃん死んでないから」
「ともかく、お前は男子校で頑張れ。絶対に女だということをバレないようにな。卒業しないと、面倒なことになるんだよ」
矢継ぎ早に言うと、父さんはじゃあな、と私に背を向ける。いや、待てって。全く説明がなっていないんだけど。
「あ、お前の同室は安心できるやつだから」
「は? 一人部屋じゃないのかよ!」
父さんは私の言葉を無視して、校舎に消えていった。
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