受験日

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 私は言われるがまま、スーツに身を包んだ。まだスーツなんて使う機会はないと思っていたけど、無理やりに母さんに作りに行かされたんだっけ。なんだかスーツを着ると、ぴしっとした気持ちになる。 「よし」  私はカーテンを開き、赤茶の鞄に筆箱、腕時計、机の上にあった受験票と教材を入れ、肩にかけた。  部屋を出て、リビングに入ると、母さんが朝ご飯を用意している。 「おはよう、空」  温かい味噌汁が出される。私は鞄をおろし、椅子に座った。 「おはよう。いただきます」 「空、ジャケットがシワになっちゃうから脱いだほうが……」 「寒いから脱がない」  私はずずっと味噌汁をすすった。ほわりと胸が温かくなる。 「早く顔洗って出かけられるようになさいね」  私は母さんの言葉に壁時計を見た。あ、もう出る時間が近づいている。私は朝ご飯もそこそこに、洗面所へ駆け出した。
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