ちょうちょ

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『だいすき』 …そらみみ? なにかに、そぉっとぎゅうっと抱きしめられた。 いそいでふりかえったけど、何もいなかった。 「今の、なに!?」 「何って…そのままのものよ。あたしたちを愛してくれるもの」 あい?あいって何? だいすきって何? どうして抱きしめたの? あたしは、こわくなった。 あたしは、ゆめを見てるのかもしれない。 起きたら、何もないのに。 「うそ…」 「うそじゃないわ」 あたしは、おねえちゃんをにらみつけた。 「うそ!こんなのうそ!だれもあたしなんかいらない…。 だいすきなんて言ってくれない! 死ねばいいって言われた! だいっきらいって言われた! できそこないって言われた! あたしはいらない! みんなもいらない!」 なみだがボロボロながれた。 あたしのことなんて、みんないらないんだ。 これできっと、おねえちゃんもいらないって言う。 だれかとまちがえたんだ。 あたしがあいしてもらえるわけない。 『だいすき』 あたしはなみだでへんになった目を見ひらいた。 『生まれてきてくれてありがとう』 ちょうちょが…。 『かわいいすがた、見せてくれてありがとう』 ちょうちょがあたしのまわりに…。 『がんばったね』 あたしの目から、もっとなみだが出た。 ちょうちょは、ひらひらあたしのまわりを飛んでる。 おねえちゃんの方にも飛んでく。 ああ、やっとわかった。 あたしはこわかったんだ。 ちょうちょの言葉を信じられるほど、強くなかったんだ。 いらない子なんだって、思ってたから…。 信じて、そのあとまたいらないって言われるのがこわかったんだ。 「…あたしはね、からだが弱かったの」 おねえちゃんが言う。 ちょうちょを指先に止まらせながら。 「お母さんは、若いころにあたしをうんで…がんばって育ててくれたわ。 でもあたしは生きのこれなかった」 ちょうちょは音もさせずに飛ぶ。 少し悲しそうなおねえちゃんを元気づけるように、かたやかみに止まる。
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