たえ

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森の中に、おひさまの光はさしこまない。 木がいっぱいあるから邪魔なんだ。 でも、この木にはいっぱい実がなってる。 …おなか…すいたな…。 あたしは一つの木の実を取った。 死んじゃったってかまわない。 そう思ったから、おっきな口を開けて食べた。 「あ…あま~~い!」 びっくりした。 こんなにあまいものがあるの? それに、へんなきのこみたいに死んじゃったりしないみたい。 …へんなの。 どうしてこんなにおいしいのに、こんなにあるんだろう。 みんなが持っていってもおかしくないのに。 あたしはぐるっと周りをみまわす。 だれもいない。 あたしのことをだいっきらいって言ったあの子もいない。 うむんじゃなかったって言ったお母さんもいない。 あたしのからだをいっぱいさわってくるお父さんもいない。 あたしのことできそこないって言ったお兄ちゃんもいない。 …だいきらい、だいきらい、みんなだいきらい。 でも、ひとりぼっちだと、こわい。 あたしはぎゅっとくちびるをかんだ。 こわくなんかない、みんながいたほうがこわい。 いうこときいて、じっとしてても。かみついて、ひっかいて、あばれても。 どうせみんな同じことをする。 あたしは、死んじゃったってかまわない。 あそこにかえるぐらいなら、死んじゃったって…。 「だぁれ。まいご?」 「だれっ!!」 あたしはびっくりして、ふりかえる。 …後ろにいたのは黒いかみの毛のおねえちゃん。 丸くておっきな、光るなにかを持ってる。 おようふくは、まっしろなきもの。 おなかのあたりにまっかなリボン。 「にげてきたの?」 ちりん、っておねえちゃんの首のすずがなった。 あたしは何にも言えなくてくちびるをかむ。 おねえちゃんが目を見ようとするようにかがんだ。 あたしはこわくて後ろに下がる。 おねえちゃんが笑った。 「こわがらなくていいわ、あたしはたえ」 「…たえ?」 おねえちゃんがうなずいた。
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