また、それらが俺を狂わせにやって来たんだって

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「あー…、本当に貴方の事嫌いだわ、私。」 上品に溜息をつき、普通は本人を目の前にして言ってはいけない事を口にする。 それでも、貴将の表情には変化はない、むしろ先程よりも気分が良さそうに見える。 「無理だよ、」 二人は急に否定の言葉を発した貴将に驚いた表情を見せる。 「だからさっきの用件。」 さっきの用件というのは、早苗の言った用件以外にない。よく聞こえたな、と感心しながらも、文化祭の準備を手伝わないといった返事にルイナは納得行かない。 「何ワガママ言ってるのよ。いくら貴方が根暗で皮肉屋の性根の曲がった人間でも、学校の行事の手伝いぐらいはやるべきではないのかしら。」 かなりの毒舌を発揮するルイナ。早苗は例のごとく、慌てて貴将のことを弁護している。 すると、貴将がひとさし指をピンと立たせ、先生が生徒に教える様な声で言った。 「だってさ、この中に俺と一緒で仕事が『出来る』奴がいると思う?」 貴将の言葉に準備で忙しなくなっていた教室の空気が凍る。 クラス中の人間が一人残らず思った。 『自分の所には来ないでくれ』 「………、」 貴将の『特殊性』を忘れていたルイナが、バツの悪そうな顔をしてと、早苗が意を決した様な顔で、その静寂を破った。 「…あ、あの、だから私の仕事を手伝ってくれませんか…っ!?」 クラス中がざわめく。隣りにいるルイナも驚きのあまり、面白い顔で止まってしまう。 その発言は別段おかしくない、ただ友人に仕事の手伝いを申し出ただけのこと、しかし貴将に対してのみ、それは普通のことではなくなる。 早苗は貴将から目線を逸らさずに、見つめ続ける。 初めは、驚いた顔をしていた貴将だが、再び笑みを浮かべ、不意に早苗の方へ腕を伸ばす。 「…っ!?」 早苗が怯えたように身を強張らせた。 それを確認した貴将は、ニヤリとした笑いを浮かべる。 「俺が一挙一動するたんびにさ、動き、止まっちゃうならさ、手伝う意味ってあるのかな?」 哀しそうな顔をして、俯く早苗にそう言うと、貴将は鞄を持って立ち上がった。 「とまあ、流石に納得出来たろ?」 そう、言い残し貴将は教室を出ていってしまった。
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