失恋

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強い風が吹いていた。  それはまるで私達の存在をどこか遠くへ飛ばそうと何らかの不思議な力が働いているのではないだろうか、と思えるほどの強風だった。  私は飛ばされそうになりながらも視線をそらす事なく章也くんを見つめていた。 それが今の私が出来る唯一の事だ。 「ごめんなさい」  震える唇で紡いだ言葉は彼の傷ついた心には届かないだろう。  彼の傷ついた瞳と震えた唇がそれを物語っていた。  私はその傷の深さを感じる事が出来る。  彼は一年前の私と同じだ。  一年前の私は今の彼と同じ想いを背負い、彼と同じ傷を受けた。そして、今もその傷ついた想いを背負ったままだ。  好きな人に受け入れてもらえない気持ち。 きっとその事実と苦しみに何の変わりはない。  ただ一つ大きな違いがあるとしたら……章也くんはその気持ちを打ち明けることが出来たけれど、私の方は一生その気持ちを相手にぶつける事は出来ないという事だろう。 私が出来る事はその想いを心の中にそっとしまって、傷が癒えて風化するまで待ち続けるしかないのだ。 「ごめんね」  もう一度私が口にした言葉に章也くんの唇の震えが止まった。 無理に笑おうとして失敗した、そんな表情を私に向ける。 「……いや、こっちこそいきなりごめん。話を聞いてくれてありがと」  変声期を迎えた章也くんの声は想像していたよりもしっかりと私の耳に届いた。 私が何か言う前に背中を向けたのは、私にこれ以上情けない顔を見せないために彼ができる最後の強がりだったのだろうか。  背中を向けて校舎に戻っていく姿はいつもよりもしぼんで見えた。 がっかりしたように両肩を落として、ほんの少し背中を丸めて歩いているからかもしれない。 そんな章也くんの背中を見るのは初めての事だった。  ズキンと胸に鈍い痛みが走った。  その痛みの正体を私は知っている。 告白を断った罪悪感なんかではない。 何故なら、私の心の片隅にも章也くんに対して悪いという気持ちは欠片も存在しないのだから。 それならば、この痛みは何だ? この痛みは言うなれば『同病相憐れむ』というやつだ。  私も恋を失った。  本当に大好きな人で私の初恋だった。  章也くんにとって私は初恋ではないかもしれない。 それでも章也くんも恋を失ったのだ。  だから『同病』。
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