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私は人があんなに苦しい表情をするのを初めてみたような気がする。
その表情が今も私の胸に焼き付いて離れないほどに章也くんの表情は印象的だった。
そして、心が痛んだ私が思わず口にしたのが、あの「ごめんね」という言葉だったのだ。
あの時、私は強く想われていると思った。
男の子に告白されるということ自体が初めてだったからそう思ってしまったのかもしれない。
しかし、少なくとも今の章也くん様子を見る限り、昨日の余韻すら感じる事は出来なかった。
思い違いだったのかもしれない。
想いの大きさとは人それぞれだ。
一年間もずっと想ってくれたことやあの時の表情を見て、私は章也くんが私の事をすごく好きでいてくれたと思っていた。
けど、本当はそんな事もなくって、すぐに忘れてしまう程度のものだったかもしれない。
そう考えた私は、男の子の友達とふざけあって大きな笑い声をたてている章也くんからそっと目をそらした。
その瞬間をまるで見計らったように親友の亜衣が「おはよう!」と大きな声で声をかけてきた。ニコニコと笑っている表情がなんとも可愛らしい。
亜衣に答えて挨拶をしながら、私は今、抱えているモヤモヤ感が収まっていくのを感じていた。
小柄な亜衣はいつでも笑っている。
しかも性格も穏やかで一緒にいるだけで何だか優しい気持ちになれる子だ。
亜衣といつものようにくだらない雑談をしているうちに気持ちが冷えていくのを感じた。
自分の中で混乱していた考えがまとまっていく。
忘れよう。
章也くんも今までと変わらない態度で接しようとしている。
それなのに、私だけが馬鹿みたいに意識しているなんて何だか悔しい。
告白してきたのは向こうなのだ。
それなのに、私が章也くんの事を考えて混乱しているなんて絶対に間違っている。
告白された事なんて忘れてしまって、私も今まで通り章也くんに接していこう。
「遥日、どうかしたの?」
突然、黙り込んだ私の顔を亜衣が訝しげに覗きこんできた。
「何でもない!それより、今日の数学の宿題やってきた?」
無理やり笑顔を作りながら話をそらす。私の耳には章也くんの笑い声が不自然なほど響いて聞こえていた。
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