私の好きな人

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「ただいま」  返事が帰ってくることはまずない。 私は物心がついたころから生粋の鍵っ子だ。 そうと分かっていても私は家に帰ってくると必ずこの言葉を誰もいない空間に向かって投げかける。 まあ、習慣のようなものだ。  しかし、今日はいつもと様子が違った。 「おかえり」  返事が返ってきて狭い玄関にママが立っていた。 頬が紅潮し、何だか浮かれ気味である。何か良い事でもあったのか、ただでさえ幼く見える童顔を破願してニコニコと笑っていた。 「あれ……?仕事は?」  現在、午後五時半である。こんな時間にママが家に帰宅していることなど滅多にない。 何かあったのだろうか?と心配になるがママの表情を見る限り悪い事があったようでもなかった。 「うん……。今日は早めに切り上げてきた。たまには遥日ちゃんと一緒にご飯食べたいなって思って」 「そうなの?」 「うん」  ママは笑顔を崩さない。 この一年で表情が明るくなって、若返ったような気がする。 「分かった。じゃあ、着替えたらご飯の支度、手伝うね」  私が靴を脱ぎながら言うとママは「いいよ」と言った。
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