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村長の家へ向かう時とはうって変わり、家に戻る帰り道、インシェアの心は落ち着いていた。
変わらぬ暗い空を見上げる事はせず、それよりも村の人々の様子が気になっていた。
村を歩いているインシェアに、一人の少女が声を掛ける。
「ねぇねぇ、シェアお姉ちゃん」
インシェアは村の子供達に、シェアお姉ちゃんと呼ばれ、慕われていた。
茶色の髪を左右で縛った御下げが印象的で、背丈はインシェアの腰辺り。
少女は不思議そうに言葉を続ける。
「お空が暗いの、どうして?」
きっとその問いに答えられる者は、この村にはいないだろう。
少し困った様に眉をしかめ、インシェアは腰を屈めた。
少女と同じ目線で語りかける。
「お空はまだ寝てるのよ。少しお寝坊さんみたい。でももう少し寝かせてあげようね」
ふっと笑みを溢しながらの苦し紛れの言い訳。
相手がまだ小さな子供だからだろう、この様な言葉しか思い付かなかったのだ。
「そっかぁ。じゃあ起こさない様にしないとね!」
そう言い、少女は可愛らしい笑顔を浮かべ、走って行った。
ほっと息を吐き、安堵する。
子供の素直な無邪気さに、インシェアも笑顔が溢れる。
「あの子達の不安を消し去る為にも、早く何とかしないと」
村人達が騒ぎ出すのも、時間の問題だろう。
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