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学校で進路調査があった。
ついに来たか、と思った。
今の自分の偏差値となんとなくの興味で、県外の大学を志望校にしてみた。
もし、県外に行けば、
亜美とは遠距離になる。
どうしよう。
遠距離を、やっていけるだろうか?
俺も、亜美も。
甘ったれの亜美は、耐えられるだろうか?
もし、一年間、遠距離を続けられたとして、
亜美が俺と同じ進路を選んだら、正直、
俺は、重い。
亜美は、可愛い。
守ってやりたいし、離れたくない。
だけど、県内に残るという選択肢は考えていなかったし、
それだけの理由で進路を考えようとは思えなかった。
そして、亜美の人生を抱えてやるくらいの覚悟は、
俺にはまだなかった。
「亜美はさぁ、俺が大学行ったらどうする?」
「遠くに行くの?」
学校帰りにいつも寄る公園のベンチで、
いつものように、二人で並んで座る。
満月の夜。
「まだ決めてないけど、そろそろだし」
「遠くに行ったら、亜美は寂しくて死ぬかもしれない」
亜美は、ぎゅっと俺の腕にしがみついた。
不安が、伝わってきた。
「亜美を一人にしないでね?」
俺は、亜美の頭を撫でてやる。
だけど、
俺だって進路が決まらずに、
不安だった。
亜美の真っ直ぐな、俺を想ってくれる気持ちを、
素直に嬉しいと思う。
だけど、今は。
華奢で幼い彼女を、支えてあげるだけの自信が、ないんだ。
亜美は最近、
前にも増してすねやすくなり、甘ったれになった。
すぐに不安を口にするようになった。
俺の進路の件が、理由の一つだと思うけど。
この時は、まさか、
真知子に対する嫉妬も含まれていたなんて。
全然、
想像もしていなかった。
夏休みのある日、
補講期間も終わって、家でだらだらとテレビを見ていると、
チャイムが鳴った。
出ると、真知子だった。
真知子も驚いていた。
「おばちゃんは?」
「今日は出掛けてる。何、お母さんに、用?」
「ううん、うちのお母さんに頼まれて、お裾分け。メロン」
真知子は、ビニール袋を差し出した。
「お、ラッキー。すんません」
「いやいや。博之にじゃないから」
真知子はそう言って笑った。
「じゃ」
「あのさ」
俺は、真知子を引き止めた。
「あの、お前、進路とか決めた?」
すると、真知子は、
どきっとするような笑みを浮かべて、頷いた。
亜美の可愛らしさとは違う、女の子を意識させる笑みだった。
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