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お母さんにおつかいを頼まれて、博之の家のチャイムを押した。
たかが、お使いじゃん。
博之が出てくる訳じゃないし。
落ち着け、あたし。
震える人指し指でチャイムに触れては、
手を引っ込めて、息をついて。
また、手を延ばす。
博之とは、コンビニで会って以来、
耐えられなくて。
博之に会いたい。
あたしも、あたしの恋を頑張ろう。
そう、思っていたはずなのに。
会いたくなかった。
会って、彼女の視線や、
二人が織り成す空気を思い出すのが、
辛いから。
会っても、
あたしには、前に進む勇気なんてなかった。
あの日、全てをくじかれた。
朝も、補講に向かうため、家を出る時間をわざとずらしていた。
どんな顔をして会ったらいいか、分かんない。
なのに、こんな時に限って。
玄関に出てきたのは博之。
会いたくないと言いつつ。
心臓は、正直だ。
大きな鼓動。
ヤバい。のぼせそう。
ねえ、博之、
あたし、やっぱりあんたが
大好き。
「おばちゃんは?」
「今日は出掛けてる。何、お母さんに、用?」
「ううん、うちのお母さんに頼まれて、お裾分け。メロン」
あたしはビニール袋を差し出した。
「お、ラッキー。すんません」
「いやいや。博之にじゃないから」
ああ、どうしてこんな憎まれ口しか叩けないのよ、あたしは。
自分がいたたまれなくて、消えてしまいたくなった。
「じゃ」
どうしていいか分からなくて、博之に背を向けると。
「あのさ」
博之に引き止められて、あたしはどきっとした。
「あの、お前、進路とか決めた?」
幼馴染みの勘で、ああ、迷ってるなって思ったから。
あたしは笑顔で頷いた。
昔から、博之はあたしと一緒にいて、
ワガママなあたしの後ろから付いてくるのが彼だったけど。
迷うのはいつも、あたしで。
博之が背中を押してくれていたけど、
たまに、こんな風に。
博之が迷う時があって。
そんな時あたしは、いつも笑顔をあげる。
ほら、こんな風に。
だけど、所詮幼馴染み。
きっと、あの可愛い彼女は、あたしなんかよりも博之に必要とされて、
博之を、支えているのだ。
この笑顔の特権さえ、彼女が奪ってしまった。
胸がきりりと痛む。
あたしはそれでも、
奥歯を噛み締め、笑顔を保つ。
博之の安心が、
この笑顔で、少しでも作れるなら。
あたしはここで、
あんたのために、
いくらでも笑っているよ。
ねえ、それくらい、
博之が好きなんだよ。
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