ストロベリー・ジャム。

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🍒 🍒 🍒 プリクラにらくがきをしていたら、 ヒロが、後ろから抱きついてきた。 ヒロは普段、人前でこんなことをする人じゃない。 二人で迎えた一年目の記念日は、 とろとろに甘い筈なのに、 きゅっと胸がすぼまるように、どこか切なくて酸っぱい。 ねぇ、ヒロも同じことを思ってるのかな? 来年の今日を、 あたしたちは二人で迎えることができるのかな? そこに、会話はない。 だけど熱い気持ちで、あたしたちは通じあえる。 「ヒロ、卒業したらどうするの?決めた?」 「うーん、どうしようかなぁ」 帰り道、手を繋ぎながら尋ねると、 ヒロはなんでもないことのようにさらっと言った。 「やっぱ。地元は離れちゃう?」 「うーん、そうなるかも」 ああ、やっぱり。 ヒロは、自分の答えが決まっているときいつも、うーん、と言うのが口癖で。 柔らかく伝えようとする無意識のためなのか、 あたしは、優しく響くそれが大好きなのに。 今は、胸に突き刺さる。 ヒロがあたしに何を期待してるのか、 本当はあたしは知ってる。 「離れても、あたしは大丈夫」 例えば、ヒロのためなら何でも出来る気がする。 学校をやめてもいい。 ここで土下座しろと言われたらする。だけど、それらは全て、あなたが側にいて力をくれるから。 ヒロが欲しいもの、 あたしは、あげられない。 ヒロ、あたし、あなたに依存してるのかな? 独占したくて堪らないよ。一分一秒、離れたくない。 世界中で一番、 あなたが、好き。 好きだから、側にいて。 あたしが思ってること、ヒロは知ってるんだよね。 ヒロがあたしの気持ち全部分かってくれてるってことも、 あたしは分かってる。 お互いのことを理解しているって、 こんなとき、なんだか切ない。 こんなに手を繋いで近くにいるのに、 すごく切ない。 「そう言えば、この前コンビニで会った真知子って、覚えてる?」 どきん。 胸が、高鳴った。 「あいつ、今日が誕生日らしくて。俺たちの記念日に誕生日のやつがこんな身近にいるって、なんか不思議じゃない?」 「そうかな」 陰を潜めていた嫉妬心が、むくむくと沸き上がる。 ヒロは。 あたしのなんだから。 「一年365日だから、毎日誰かの誕生日じゃん」 「まぁ、そうだね」 なんて嫌な女の子なんだろう、あたし。 こんなこと、言いたい訳じゃないのに。 こんなあたし、嫌いだ。 大嫌いだ。
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