ストロベリー・ジャム。

16/46
前へ
/149ページ
次へ
🍒 🍒 🍒 プリクラを撮った後、亜美は急に元気を失った。 進路によって離れることを、彼女は悟ったんだ。 「あたしを、置いて行かないでね」 言って、亜美は泣き出した。 どうしたらいいのか、 分からなかった。 胸が、痛い。 やりきれない。 亜美の頭を撫でてやったけど。 すがりつくように、亜美は俺の背中に手を回してきたけれど。 好き、なのに。 なんだか亜美が遠い。 帰り道、亜美と別れてからなんだか疲れが襲ってきた。 好きだから、確証のない慰めなんか言いたくないし、正直な自分でありたい。 だけど、亜美には。 それを伝えるのは、困難に思えた。 玄関口、向かいの真知子の家の二階を見上げた。 昔から変わらない、道路に面した真知子の部屋。 電気は消えていた。 「あの、お前さ、進路決めた?」 夏休みのあの日、真知子は笑顔で頷いた。 あの笑顔を、思い出した。 「何か、用?」 声に驚いて振り向くと、真知子がいた。 「・・・お、おかえり」 とっさに言ってしまった。 「・・・なんだそれ。ただいま」 真知子は笑った。 「何か用だった?」 「いや、別に」 デニムのポケットに手を入れると、亜美がくれたキャンディーに触れた。 「これ、やるよ。誕生日だよな」 よれよれになった包み紙のキャンディーを差し出す。 真知子の、思ったより小さな掌に、一瞬触れた。 「なんだよ、もっといいのをくれたらいいのに」 真知子は、憎まれ口を叩いた。 「お前、アメ玉を馬鹿にすんなよ」 俺が真知子の顔を見上げると、真知子はうつ向いていた。 「じゃ」 「博之」 俺が、玄関に向かおうとすると、背中から真知子が呼んだ。 「・・・ごめん、嘘。すごい嬉しい」 どきっとして。 俺は振り向く。 真知子の口から、 そんな台詞を聞くなんて。 真知子は、 ノースリーブのワンピースで、唇を噛み締めて。 夕闇の中、こちらを向いて立っていた。 その姿が、 なんだか無償に心の中に刻まれて。 ああ、こいつ、 女の子だったんだ。 当たり前のことを、初めて思う。 胸がすくむ。 真知子が俺を見た。 ただ、それだけで。 動けない。 真知子の視線が、俺を捕えて離さない。 「あのね、あたし」 真知子は口を開いて、何かを言いかけた。 その時。 「あら、真知子ちゃん」 うちの玄関から、財布を持ったお母さんが出てきた。 「あ、おばさん、こんばんは」 「この前、すいかありがとね。お母さんにもよろしく伝えてちょうだい」
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加