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トーストに、たっぷりのストロベリー・ジャムを塗る。
ジャムを塗ったトーストに、牛乳。
毎朝の食事をして、占いを見て、家を出る。
今日から新学期。
誕生日のあの日以来、初めて博之と顔を合わせる。
いつもの時間に玄関を出ると、
向かいの家の玄関ドアが開く。
「・・・はよ」
「おはよぅ」
博之が、あたしの顔を見た。
それは、初めてのことで。
あたしの心臓はどきん、と大きく高鳴る。
「真知子さ、進路って、どこにすんの?」
真知子。
彼の口から出た自分の名前を耳にしただけで、
体の芯がすぼまる。
甘く、酸っぱい感覚。
博之、
あんたから名前呼ばれるのは、
いつぶりだろうね。
博之から呼ばれる響き、
すごく好きだ。
博之が、すごく好きだ。
「・・・博之は?」
あたしは質問には答えずに、逆に博之に尋ねた。
「まだ決めてないんだけどさ、県外に出ようかなぁ」
ああ。
博之が、行ってしまう。
ズシン、と大きな衝撃が胸の奥底にあった。
足ががくがく震えそうになった。
全身の力が抜けそうになるのを、奥歯を噛み締めて笑顔を作ることで、
かろうじて堪える。
「やりたいこと、決まってないのに?」
「うん、まあね」
「変なの」
「お前はどうなんだよ」
「あたしも県外かなぁ」
あたしはとっさに、
嘘をついた。
惨めだ。
ねえ、博之。
あんた、最高に残酷だよ。
あの日、
誕生日のあの日。
くしゃくしゃで、少し溶けかけていたキャンディー。
あたしのために買ってくれたものじゃないって、すぐに分かったけれど。
博之があたしにくれたものだから、すごく嬉しくて。
大好きが溢れてきて。
いつもの、憎まれ口を叩いてしまったけれど。
素直に、あなたに向かう
あたしになりたいと思ったの。
好きって伝えたいと、
本当に素直に思えたの。
博之との距離が、
近付いたと思ったの。
博之には彼女がいて、
届かないかもしれないけど。
人生でたった一度の、
あなたへの、恋だから。
距離が、近付けたことを嬉しく思ったのに。
どうして、更に遠くに、
あたしを突き放すの?
そもそも、あたしが入る余地なんか、
博之の中にはないのかもしれないけど。
あたしの中には、
あんたしかいないんだよ。
でっかいんだよ。
・・・苦しいよ。
自転車を漕いで行く彼の背中に、
「好き」
小さく呟く。
それさえ、来年の今頃は、
叶わなくなる。
ヤバい。
朝から、泣きそうだ・・・。
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