ストロベリー・ジャム。

18/46
前へ
/149ページ
次へ
🍒 🍒 🍒 トーストに、たっぷりのストロベリー・ジャムを塗る。 ジャムを塗ったトーストに、牛乳。 毎朝の食事をして、占いを見て、家を出る。 今日から新学期。 誕生日のあの日以来、初めて博之と顔を合わせる。 いつもの時間に玄関を出ると、 向かいの家の玄関ドアが開く。 「・・・はよ」 「おはよぅ」 博之が、あたしの顔を見た。 それは、初めてのことで。 あたしの心臓はどきん、と大きく高鳴る。 「真知子さ、進路って、どこにすんの?」 真知子。 彼の口から出た自分の名前を耳にしただけで、 体の芯がすぼまる。 甘く、酸っぱい感覚。 博之、 あんたから名前呼ばれるのは、 いつぶりだろうね。 博之から呼ばれる響き、 すごく好きだ。 博之が、すごく好きだ。 「・・・博之は?」 あたしは質問には答えずに、逆に博之に尋ねた。 「まだ決めてないんだけどさ、県外に出ようかなぁ」 ああ。 博之が、行ってしまう。 ズシン、と大きな衝撃が胸の奥底にあった。 足ががくがく震えそうになった。 全身の力が抜けそうになるのを、奥歯を噛み締めて笑顔を作ることで、 かろうじて堪える。 「やりたいこと、決まってないのに?」 「うん、まあね」 「変なの」 「お前はどうなんだよ」 「あたしも県外かなぁ」 あたしはとっさに、 嘘をついた。 惨めだ。 ねえ、博之。 あんた、最高に残酷だよ。 あの日、 誕生日のあの日。 くしゃくしゃで、少し溶けかけていたキャンディー。 あたしのために買ってくれたものじゃないって、すぐに分かったけれど。 博之があたしにくれたものだから、すごく嬉しくて。 大好きが溢れてきて。 いつもの、憎まれ口を叩いてしまったけれど。 素直に、あなたに向かう あたしになりたいと思ったの。 好きって伝えたいと、 本当に素直に思えたの。 博之との距離が、 近付いたと思ったの。 博之には彼女がいて、 届かないかもしれないけど。 人生でたった一度の、 あなたへの、恋だから。 距離が、近付けたことを嬉しく思ったのに。 どうして、更に遠くに、 あたしを突き放すの? そもそも、あたしが入る余地なんか、 博之の中にはないのかもしれないけど。 あたしの中には、 あんたしかいないんだよ。 でっかいんだよ。 ・・・苦しいよ。 自転車を漕いで行く彼の背中に、 「好き」 小さく呟く。 それさえ、来年の今頃は、 叶わなくなる。 ヤバい。 朝から、泣きそうだ・・・。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加