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「実花は進路、どうするの?」
「ん、迷ってる」
秋晴れの日、職員室隣の進路指導室で実花と会った。
赤本や専門学校のパンフレットが密集する部屋は出入り自由で、
たまたまあたしと実花だけしかいなかった。
「彼氏と一緒の方面に行くの?」
実花は、寂しそうに笑った。
「あたしは、そうしたいんだけどね」
あたし、は。
つまり、彼はそうではないんだ。
「自分のやりたいことをやれって」
「そっかぁ・・・」
博之も、そうなの?
彼女さんを、置いていくことをどう思ってるの?
「あたしのやりたいことは、翔といることなんだけどな・・・」
放課後の空気に、
実花の切ない声が、溶けた。
皆、恋で悩んでる。
あたしがほしくて堪らないものを手に入れてる実花も、悩んでる。
そしてきっと、博之の彼女でさえ、悩んでる。
大切なものを手に入れるということは、
それを失う怖さや無くさないための努力を伴うことで。
ああ、恋って、
本当に切ない。
朝に食べたストロベリー・ジャムの甘さを思う。
博之とは、あれから、
朝に一言、二言、会話するのが日常になっていた。
それはテレビや音楽の他愛もない話から、進路の話まで、幅広い会話で。
時々、彼女の話もあって。
あたしの一日を、天国にも地獄にもする。
彼女の名前は、亜美ちゃん。
「元気だけやたらよくて、馬鹿なやつだよ」
博之は、笑うけど。
ねえ、博之。
女の子が元気なのはね、
好きな人と一緒にいるからなんだよ。
幸せだからなんだよ。
そして、愛されたいと願うからなんだよ。
馬鹿なやつって、言うけれど。
あんた、あの子の話するとき、
顔がにやけてるの、
気付いてないの?
馬鹿は、あんただよ。
自分がどれだけ、
彼女を幸せにしているのか、
あたしを貶めているのか、
気付けよ、馬鹿。
あんたも、のほほんと亜美ちゃんと仲良くしてるだけじゃなくて、
少し悩んで、困ってしまえばいい。
だけど。
残酷な話を聞いていることを自覚しながらも、
笑顔でいい人を演じている
素直じゃないあたしは
・・・もっと馬鹿だ。
「最近、亜美ちゃんとは仲良くやってんの?」
あぁ、もう、本当に馬鹿。
分かっていても、あたしはそんなことを一週間に一回くらいは聞いてしまっている。
夏休み明けの頃は、
「まぁ、普通」
と短く返していた博之なのに。
「最近、ヤバいかもしんない」
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