ストロベリー・ジャム。

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🍒 🍒 🍒 「実花は進路、どうするの?」 「ん、迷ってる」 秋晴れの日、職員室隣の進路指導室で実花と会った。 赤本や専門学校のパンフレットが密集する部屋は出入り自由で、 たまたまあたしと実花だけしかいなかった。 「彼氏と一緒の方面に行くの?」 実花は、寂しそうに笑った。 「あたしは、そうしたいんだけどね」 あたし、は。 つまり、彼はそうではないんだ。 「自分のやりたいことをやれって」 「そっかぁ・・・」 博之も、そうなの? 彼女さんを、置いていくことをどう思ってるの? 「あたしのやりたいことは、翔といることなんだけどな・・・」 放課後の空気に、 実花の切ない声が、溶けた。 皆、恋で悩んでる。 あたしがほしくて堪らないものを手に入れてる実花も、悩んでる。 そしてきっと、博之の彼女でさえ、悩んでる。 大切なものを手に入れるということは、 それを失う怖さや無くさないための努力を伴うことで。 ああ、恋って、 本当に切ない。 朝に食べたストロベリー・ジャムの甘さを思う。 博之とは、あれから、 朝に一言、二言、会話するのが日常になっていた。 それはテレビや音楽の他愛もない話から、進路の話まで、幅広い会話で。 時々、彼女の話もあって。 あたしの一日を、天国にも地獄にもする。 彼女の名前は、亜美ちゃん。 「元気だけやたらよくて、馬鹿なやつだよ」 博之は、笑うけど。 ねえ、博之。 女の子が元気なのはね、 好きな人と一緒にいるからなんだよ。 幸せだからなんだよ。 そして、愛されたいと願うからなんだよ。 馬鹿なやつって、言うけれど。 あんた、あの子の話するとき、 顔がにやけてるの、 気付いてないの? 馬鹿は、あんただよ。 自分がどれだけ、 彼女を幸せにしているのか、 あたしを貶めているのか、 気付けよ、馬鹿。 あんたも、のほほんと亜美ちゃんと仲良くしてるだけじゃなくて、 少し悩んで、困ってしまえばいい。 だけど。 残酷な話を聞いていることを自覚しながらも、 笑顔でいい人を演じている 素直じゃないあたしは ・・・もっと馬鹿だ。 「最近、亜美ちゃんとは仲良くやってんの?」 あぁ、もう、本当に馬鹿。 分かっていても、あたしはそんなことを一週間に一回くらいは聞いてしまっている。 夏休み明けの頃は、 「まぁ、普通」 と短く返していた博之なのに。 「最近、ヤバいかもしんない」
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