ストロベリー・ジャム。

2/46
前へ
/149ページ
次へ
あたしは実花と仲がいい。 入学してすぐ、席も近くて、柔らかな彼女と仲良くなった。 あたしも彼女も、いつも英語の追試で一緒だった。 二人とも部活をしていなかったから、放課後、よく遊びに行った。 あたしは実花が好きになった。 実花と親しくなるにつれ、彼女のいろんなところをあたしは知った。 実花は目立つ子ではないけれど、 しなやかな存在感がある子だった。 美人だなぁ、とあたしが密かに思っていた塚田さんと、幼馴染みで親友だった。 いつの間にか、優しそうな彼氏が出来ていた。 あたしは実花が、 嫌いになった。 ・・・ううん、嫌いと言うより、 好きだから、羨ましくて仕方ないんだ。 素敵な幼馴染み。 素敵な彼氏。 それは、あたしの胸をひっかく。 「真智子、遅刻するよ」 お母さんに言われて、あたしは洗面所から台所に移動した。 トーストに、たっぷりのストロベリー・ジャムを塗る。 ジャムを塗ったトーストに、牛乳。 毎朝の食事をして、占いを見て、家を出る。 いつもの時間に玄関を出ると、 向かいの家の玄関ドアが開く。 「・・・はよ」 「おはよぅ」 頭の渦の辺りで寝癖が出来てる。 角張って、大人びた顎のライン。 血管の浮き出た、長い腕。 甘酸っぱい気持ちが、 胸一杯に広がる。 博之は、あたしも見ずに、自転車に乗る。 ねえ、博之。 あたしが昨日、美容院に行ったの、気付いた? あたしはあんたがギリギリまで寝てて、寝癖さえ直せなかったの、すぐに分かったよ。 あたしは、風を切って自転車を走らせる博之の、 大きくなった背中を見送る。 別の高校に通うようになって、 これがあたしの朝の習慣になっていた。 幼馴染みを好きになる。 ごくごくありふれた話。 そして二人はお互いの大切さに気付き、いつしか付き合うように。 それを夢見ているのは、愚かなことなのかな? 胸が、痛いよ。 彼の後ろ姿、ただそれだけで。 キュッて、心臓が小さくなる。 どうしてこんなに近くにいるのに、 遠いんだろう? あたしは小さく溜め息をついて、 博之と反対方向に向かって自転車を走らせた。 幼馴染み。 彼氏。 あたしが欲しくて仕方ない、もの。 だけど、手に入らない。 幼馴染みへの、片想い。 うまくいきそうな構図なのに、 うまくいかない。 だって博之には、彼女がいる。 あたしと正反対の、 実花みたいな可愛い子。 あたしは堪らなくて、 自転車を全力でこいだ。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加