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あたしは実花と仲がいい。
入学してすぐ、席も近くて、柔らかな彼女と仲良くなった。
あたしも彼女も、いつも英語の追試で一緒だった。
二人とも部活をしていなかったから、放課後、よく遊びに行った。
あたしは実花が好きになった。
実花と親しくなるにつれ、彼女のいろんなところをあたしは知った。
実花は目立つ子ではないけれど、
しなやかな存在感がある子だった。
美人だなぁ、とあたしが密かに思っていた塚田さんと、幼馴染みで親友だった。
いつの間にか、優しそうな彼氏が出来ていた。
あたしは実花が、
嫌いになった。
・・・ううん、嫌いと言うより、
好きだから、羨ましくて仕方ないんだ。
素敵な幼馴染み。
素敵な彼氏。
それは、あたしの胸をひっかく。
「真智子、遅刻するよ」
お母さんに言われて、あたしは洗面所から台所に移動した。
トーストに、たっぷりのストロベリー・ジャムを塗る。
ジャムを塗ったトーストに、牛乳。
毎朝の食事をして、占いを見て、家を出る。
いつもの時間に玄関を出ると、
向かいの家の玄関ドアが開く。
「・・・はよ」
「おはよぅ」
頭の渦の辺りで寝癖が出来てる。
角張って、大人びた顎のライン。
血管の浮き出た、長い腕。
甘酸っぱい気持ちが、
胸一杯に広がる。
博之は、あたしも見ずに、自転車に乗る。
ねえ、博之。
あたしが昨日、美容院に行ったの、気付いた?
あたしはあんたがギリギリまで寝てて、寝癖さえ直せなかったの、すぐに分かったよ。
あたしは、風を切って自転車を走らせる博之の、
大きくなった背中を見送る。
別の高校に通うようになって、
これがあたしの朝の習慣になっていた。
幼馴染みを好きになる。
ごくごくありふれた話。
そして二人はお互いの大切さに気付き、いつしか付き合うように。
それを夢見ているのは、愚かなことなのかな?
胸が、痛いよ。
彼の後ろ姿、ただそれだけで。
キュッて、心臓が小さくなる。
どうしてこんなに近くにいるのに、
遠いんだろう?
あたしは小さく溜め息をついて、
博之と反対方向に向かって自転車を走らせた。
幼馴染み。
彼氏。
あたしが欲しくて仕方ない、もの。
だけど、手に入らない。
幼馴染みへの、片想い。
うまくいきそうな構図なのに、
うまくいかない。
だって博之には、彼女がいる。
あたしと正反対の、
実花みたいな可愛い子。
あたしは堪らなくて、
自転車を全力でこいだ。
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