ストロベリー・ジャム。

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文化祭が終わって、受験まっしぐらの11月初旬、 初めて弱気なことを言った。 行きたい学校を決めた、と聞いた翌週のことだった。 どきん あたしの胸が、高鳴ったのは。 彼女との仲がうまくいってないことが、 嬉しかったから。 なんて、汚いあたし。 罪悪感にさいなまれる。 「何言ってんの?あんなに仲良しじゃん」 明るく、はぐらかそうとしたけれど。 博之は真っ直ぐに、二重の綺麗な瞳であたしを見た。 「いや、やっぱり進路絡むとさ、いろいろあるんだよ」 博之が素直な心の内を見せてくれたのだと、分かったから。 博之の瞳に写る自分を見て、 あたしの胸は、 ずきん、と痛む。 どうしよう、 すごく苦しいよ。 博之が辛そうなのが、 すごく、苦しいよ。 「確かに、県外出ちゃうと遠距離だもんねぇ」 「遠距離は嫌だって、言われたんだよ、この前。どう思う?」 あたしなら、遠距離でもきっと、博之を笑顔で見送るよ。 「遠距離でも頑張るって、言って欲しいよねぇ」 「そうなんだよなぁ、はぁ、めんどくせ。いや、朝から暗い話題で悪い。じゃな」 「うん、じゃあ」 相変わらず寝癖のついたままの後ろ姿に、あたしは手を小さく振った。 亜美ちゃんのそれを、我が儘で片づけられないことをあたしは知っている。 もしも遠距離になったら、 あたしは博之を黙って笑顔で見送るけど。 寂しくて、言えなくて、毎日苦しくなる自信がある。 彼女はただ、自分に正直な子なんだ。 それをあたしは知っていた。 知っていて、彼女を擁護しなかった。 溜め息をついて、彼の大きな背中を見つめる。 重く、暗い感情がのしかかる。 あたしはずるい。 心のどこかで、二人がうまくいかないことを望んでいる。 だからと言って博之が、 あたしを選ぶとは限らないのに。 自転車をこぎながら、博之の真っ直ぐな視線を思い出した。 ねぇ、博之。 その辛さ、よかったらあたしにぶちまけて。 恋人じゃなくていい。 友達で、いい。 ただ、 あなたにとって、かけがえのない あたしになりたい。 博之の、最高の友達になりたいよ。 駄目かな? こんなずるい女の子は、 ・・・やっぱり、駄目かな? 叶わないのに、 届かないのに。 それでもあたしは博之にすがってしまう。 どうして他の誰かじゃ駄目なんだろう? この引力は、何なのだろう? 博之で、あたしの中は溢れている。 ねえ、博之の中に、 あたしは少しでもいる?
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