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博之に彼女がいると知ったのは、
仲良く手を繋ぐ二人を、見掛けてしまったから。
その時の衝撃は、例えようもないけれど。
ああ、そうなんだ。
馬鹿みたいにその場に立ち尽くし、あたしは道路の対岸を歩く博之を、
穴が開くくらい、
見つめてた。
博之は、
あたしの視線に気付いて。
一瞬、
こちらを向いた。
視線が重なった瞬間、
あたしの心臓は、どきん、と大きな音を立てた。
彼は、
あたしの知ってる博之ではなかった。
知らない人だった。
いっそのこと、
博之なんて、
あたしの視線で本当に穴があいてしまえばいい。
そうして、
あたしのものに、
なればいいのに。
そんな、あたしが知らない子と、
手を繋いだりしないで。
見つめたりしないで。
笑ったりしないで。
あたしはここで、
・・・泣いてるんだから。
気付け。
仲良く歩く二人の後ろ姿を見つめながら、
道端で、涙が溢れるのを、
止めることが出来なかった、去年の夏。
最低最悪な、
誕生日のことだった。
博之は、あたしの気持ちなんて全然気付いていない。
彼にとってのあたしは、
ただの、幼馴染み。
ただの、隣人。
あたしにとって博之は、
ただの、なんかじゃないのにな。
好きな人に彼女がいる。
それを知った時、あたしは、
自分の気持ちに整理を付けなければならなかった。
だけどそれは、
そんなに簡単な作業ではなかった。
だって、毎朝会ってしまうんだもん。
間近で出会ったら、
胸が痛い。
どうしようもないよ。
なんて思いつつ。
本当は、
ただ単に、家を出る時間をずらせばいいだけの話なんだよね。
そしたら、会わなくて済むのにね。
そう、頭の中では分かってる。
だけど、仕方ないじゃない。
好き、なんだもん。
告白するとか、しないとか、そんなレベルの話の前に、
好き、なんだもん。
苦しくても辛くても、
毎朝ちゃんと、顔を見たい。
ストロベリー・ジャムを塗ったパンと牛乳。
テレビの占い。
そして、彼。
自分でも馬鹿だなぁと思うのに、
そうじゃないと朝が始まらない。
博之と同じ東高の友達から、
博之の彼女は一歳下の同じ東高の子だって聞いた。
あたしと真逆のタイプの、ふわふわした可愛い女の子。
届かない。
好きでいても、辛いだけ。
分かっているのに、
今日もあたしは、
こちらを見ない彼の後ろ姿を
見送るのだ。
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