ストロベリー・ジャム。

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🍒 🍒 🍒 三年生にもなると、模擬試験の回数も増え、 進路の二文字が重く、大きくのしかかる。 夏服に衣替えになってすぐ、進路希望調査があった。 「真知子、決めた?」 実花は、ぽてっとした唇を尖らせて、尋ねてきた。 「ううん、悩み中」 「だよね、意味分かんない。どうしよう、また受験だぁ」 「なんか欝になるねぇ」 嘘、だった。 あたしは、トリマーになりたいと思うようになり、 家から通える、ペット専門学校への進学を考え始めていた。 無数に用意された選択肢は、 どれも平等な頼りなさと、無限の長さを持っていて、 その中に迷う人にとっては、道を決めた人は焦りの対象でしかない。 実花は、お医者さんになりたいと目標を持つ彼氏に、 劣等感さえ持っている。 実花の気持ちを知ってるから。 あたしも実花も、 互いに目標なく過ごしてきたから。 友達として、 言えなかった。 博之は、どうするんだろう? 会えなくなるのかな? あたしは初めて、博之と離れる可能性に気付いて、 愕然とした。 付き合っていなくても、 顔を見れたなら、 後ろ姿を見送れたなら、 それで、いい。 毎朝、彼で一日を始められるから、いい。 そう思って、胸の痛みに耐えてきたのに。 会えなくなったら、 どうしよう? 考えただけで、切ない。 幼馴染み、それは、 結局は、ただの知り合いと変わらない。 彼女と違って、 離れたら、会えない。 男らしくなった、大好きな顔を、見れない。 おはようの愛しい声を、聞けない。 そんなの、嫌だよ。 どうしよう、苦しい。 ああ、そうか。 あたしは思って、もう一度、 不安げな実花を見つめた。 口にはしないけど、 彼と離れるかもしれない不安も、 実花は抱えているんだ。 大切なものが増えていくということは、 失いたくないものが増えていくということ。 片想いと両想いは、 どっちが幸せなんだろう? 博之を想っただけで、 あたしは張り裂けそうなのに、 実花は、どれだけ切ないんだろう? 「真知子?」 あたしは思わず、実花を抱き締めた。 「ちょっとぉ、まじ頑張ろうねぇ」 いろいろ、頑張ろう。 実花に少し、劣等感のあったあたしだったけど。 今まで以上に、 実花を愛せるような気がした。 片想いだけが、辛い訳じゃない。 恋は、 いつも甘く、胸が萎むほどに酸っぱい。 あたしも、頑張ろう。 あたしの恋に、向き合おう。 実花と抱き合って、 そう、思った。
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