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いつも読んでいる雑誌の発売日だったことを思い出して、
夕飯を食べてから歩いてコンビニに向かった。
あたしは、
博之が立ち読みをしてるのを見付けて、
一瞬、固まった。
なんで、あたしは。
コンビニの本のコーナー、ガラス越しに博之の姿がすぐに分かってしまうんだろう。
ただ、雑誌を買うだけ。
なのに、心臓がどきどきしてきた。
よりによって、キャミ姿だよ。
髪も、適当だし、眉毛もないし。
やだ、どうしよう。
そう思いながら。
博之と、話せる。
あたしは、唇を噛み締めてコンビニに入った。
私服の博之を、久しぶりに見た。
よれよれのデニムと、肩のラインが見える、黒いシャツ。
それだけで、崩れ落ちそう。
普通に、
普通に。
「おっす」
何がおっす、だよ。
自分につっこみをしながら、あたしは博之に声をかけた。
博之は、驚いたように顔をあげ、
「・・・ぉお」
と、言った。
彼の瞳に、あたしが写っている。
それだけで、窒息しそう。
「えっちなやつ読んでたんでしょ?」
「ちげぇよ、馬鹿」
ああ、何言ってるのよ、あたし。
「ってかお前、いつもと顔、違わなくない?」
かあっと、顔が赤くなるのが自分でも分かった。
さっと、眉毛を隠して、横を向く。
「変?」
あたしの口から出た言葉は、すごく気弱な調子で。
だって、好きな人にすっぴん気付かれるなんて。
恥ずかしいよ。
「・・・いや、そっちのほうがいいんじゃない?」
博之は、
穏やかに、そう言った。
コンビニのガラスに写る、博之を見る。
何事もなかったかのように、雑誌を読んでる。
ただ、それだけなのに。
空気が、優しくなった。
ヤバい、泣きそう。
今、時が止まって世界に二人だけになれたなら、
好きって、言うのに。
絶対、言うのに。
「お前、顔気にするより、そのサンダルおかしいよ。絶対、おばちゃんのだろ」
言われてあたしは初めて、足元を見て、
お母さんのピンクのゴムサンダルを履いてきたことを思い出して、
笑った。
ガラス越し、博之が、
泣きそうだったあたしが笑ったことにほっとした表情を見せた。
気を、遣ってくれたんだね。あんたは昔から、そういう奴だよね。
幼馴染みだから、
分かるよ。
ありがとう。
大好き。
ガラスを通して、あたしたちは視線でお互い会話する。
通じあうものが、
そこには確かにある。
なのに。
「ヒロ、お待たせ」
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