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「ねぇ、あの人、誰?」
「うん?幼馴染み」
「ふぅん」
あたしは、ヒロの大きな掌を、
ぎゅっと、強く、
握り締めた。
ヒロをコンビニのガラス越しに、あたしはすぐに気付いたのに、
ヒロは、あたしに気付かなかった。
ガラスに写るあの子を見て、
優しく微笑んでいた。
ヒロが、
あたしにしか見せない顔を、
あの人にした。
あたしはすごく、悲しかった。
ダメ、やめてよ。
あたしだけのヒロでいて。
あたしがちらっと後ろを振り向くと、
雑誌コーナーのあの人は、
こちらをじっと、
穴が開くくらい見ていた。
女の勘が、告げる。
あの人、
ヒロが好きだ。
あたしの、ヒロなんだから。
お願い、獲らないで。
「なんて名前の人?同い年?学校は?」
「真知子ってゆって、同じ年だよ。二高かな。なんで?」
「ん、ヒロの幼馴染みって聞いたから、聞いてみた」
「家が向かいでさ、腐れ縁ってやつなのかなぁ」
「遊んだりとか、しないの?」
「しないし」
ヒロは、笑った。
「でも、そんなに仲いいなら、メールとか電話とか」
「・・・しないよ」
ヒロが優しい眼差しで、あたしを見て、
掌をぎゅっと、強くきつく、握ってくれた。
気付かれた。
あたしはすごく、情けない気持ちになる。
幼馴染みくらい、気にしない、ヒロに似合う女の子になりたいのに。
ヒロはあたしを子ども扱いで。
背伸びをしても全然、届かなくて。
ヒロが好きだから、悔しいよ。
小さな嫉妬に気付かれたことが、恥ずかしいよ。
自分をしっかり持って、
ヒロに愛されるあたしでいたいのに。
そんな優しい眼差しで見られるのが、
今はすごく、
苦しいよ。
「ヒロ、キスして」
「えっ、急にどしたの?」
「ヒロとキスしたくなった」
ヒロは、甘えんぼだなぁ、と頭を撫でてくれた。
ねえ、真知子さんには、
そんな風にしないよね?
ヒロの全てが、あたしに対する愛に溢れてるって信じてるのに。
駄目。
醜いあたしは、
あの人と比較してしまう。
子どもじゃ、ないよ、あたし。
公園のベンチに行き、
ヒロはあたしにキスをしてくれた。
唇を離そうとしたヒロの顔を両手で抑えて、
あたしは更に、長いキスをした。
ヒロ、あたしだけを見ていて。
あたしを、一番に愛して。
不安が胸の中に広がってきて、
それを消したくて、あたしはヒロとキスをした。
触れ合って、繋がっているはずなのに。
すごく、切ないキスだった。
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