家路

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夏の夜だというのに今日は少し冷える。   コンビニを出るなり、寒さを紛らわすかのように俺は煙草に火を付けて素早く一息煙を吸い込み、今度はゆっくりと吐き出しながら煙草の火を見つめた。   燻るような淡い明りにすらならない火はまるで俺自身のようで……。   今は弱く空から降る雨にさえ、消されてしまいそうでそっと手を翳した。   買ったばかりのビニール傘はパンッと小気味の良い音を立てる。 慣れない感触に違和感を覚えながら、俺は家路へと急いだ。     こんなに涼しいのだから、雨なんて降っていなければ家に帰ったら窓という窓全て開け放ってしまいたいぐらいだ。 家にはクーラーなんてものはないから、コンビニで涼もうだなんて考えたのがマズかったんだろう。 コンビニに着くなり、いきなりの土砂降りに見まわれてしまうだなんてついていない。 少し涼むつもりが雨宿りしていたせいで、すっかり身体は冷えきってしまった。     先程まで雨足が強かったせいで、時折行く手を阻む水溜まりに雫が跳ねて踊る。 俺が歩く軌跡を示すように水は飛び散るのにふと立ち止まり、後ろを振り返ると辺りは雨音以外は静寂に包まれていて──。 何故だが、この薄暗い街に雨の中一人取り残されたような錯覚に陥って来る。     「にゃ~おぅ」 僅かに聞こえた鳴き声に視線を走らせる。   一軒の明かりの消えた家の玄関で、ドアの前に座り込み鳴いている一匹の猫。   暫く見つめているとこちらに気付いたのか真ん丸な黄色の瞳がこちらを向く。   「にゃ~お……」   縋るような瞳に思わず目を細める。   「締め出されたちまったのか?」 俺は短くなってしまった煙草を口から離して、猫へと近寄った。    
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