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手を差し出すと逃げもせずに猫はこちらへと擦り寄る。
それに思わず苦笑いしてしまう。
人慣れし過ぎだ。
猫は腹が空いているのか、仕切りと甘え鳴き続ける。
コンビニ帰りとはいえ、俺が持ってるのは雑誌とふりかけくらいで──。
ふと、思い付いて尋ねる。
「お前、おかか好きか?」
猫にふりかけなんて、しょっぱいから駄目!
身体に悪い!
彼女が此所にいたら、そう言って怒るだろう。
けれど、少しくらいなら。
そう思い、煙草を消す為に携帯灰皿を取り出そうとして、片手に傘、片手にコンビニ袋の手元は狂い──。
「あっ……」
くそ。
煙草を落としちまった。
片目を閉じて、見なかった事にしようかと思うが、直ぐに瞼の奥に彼女の怒った顔が浮かんで来てしまい──。
「はいはい。分かりましたよ。お姫様」
そう、独り言て落ちた煙草を拾い携帯灰皿へと入れる。
水を吸った気持ちの悪い感触に自然と顔が歪んだ。
「にゃ~うっ」
と、そこで足元で猫が催促するように鳴いたので少しビックリして。
小さく笑いを零し、おかかふりかけを取り出して猫の前に空けてやった。
彼女の作る飯は不味い。
料理などの家事が基本的に苦手らしい。
それでも、家の食卓はいつも手料理が並んでいて。
幼い頃に手料理なんて物を出された事のない俺には何だか暖かくて。
いつも口うるさく禁煙しろという彼女が食事の後に煙草を吸う時だけは何も言わずに俺の顔を見ているのは、もしかしたら何か顔に出ているのかも知れない。
不思議そうに見つめて来る彼女に何だよ?
と、癖で片目を伏せて尋ねると返って来るのはいつも意味深な笑いと『何でもない』と、お決まりのセリフだ。
昔は一人が好きだった筈なのに──。
そんな事を考えている内に猫はあげたおかかを全て平らげたのか、にゃあんとまた擦り寄って来た。
それに俺は思わず、
「餌付けされてんじゃね~よ」
笑って猫の頭を撫でて立ち上がった。
先程、点った玄関の明かりを見る。
「お前のご主人はもういるんだから」
そう言って、俺はまた煙草に火をつけた。
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