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キッチンの二人が手際よく料理するのを尻目に、ジュンはのりに聞こえないように真紅たちに話しかけた。
話題はもちろん、これからのことだ。
「真紅、とりあえず戻るまでは僕……翠星石に紅茶を淹れさせないでくれないか?」
「あら、いつも通りに振舞うという約束は破棄するのかしら?」
真紅はぴくりと片眉を吊り上げ、睨むようにジュンを見つめて言う。
「もう充分すぎるほどいつも通りじゃないだろ。だから、逆にこれ以上ボロが出るようなことはしないほうがいいんじゃないかと思う」
真紅は翠星石のオッドアイをしばらく見つめたのち、目を閉じてため息をひとつつき、言った。
「……そう。好きになさい」
いささか不機嫌そうではあったが、ほっと胸をなでおろすジュン。
すると、これまで沈黙を貫いてきた蒼星石が静かに口を開いた。
「それは違うんじゃないかな、ジュン君」
「蒼星石……?」
思わず正面から見つめた蒼星石の左右で色の違う瞳に映るのは見慣れた眼鏡の少年ではなく、白い肌の可愛らしい人形だった。
「ジュン君、ぶっつけ本番だし大変なのは分かる。けど、今のままだと気づかれるのは時間の問題だよ。もっとちゃんとしなきゃいけないと思うな」
手厳しい演技指導だった。
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