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きっと、大丈夫。
そのうちボロが出て、お父さんもお母さんも、和美(かずみ)も私が私じゃないって気付くはず。
っていうか、何で気付いていないんだろう。
不安な事にかわりはないが、その考えに光明を見出だすように、パサついた病院食も残さず飲み込み、毎日来る橘家の母親と長男の相手をして幾日か過ぎた。
傷もある程度ふさがり、抗生物質も飲み薬だけになり入浴が許された。
看護士二人に付き添われて、一人裸にされ冷水のようなシャワーを浴びせられた。
ちょっとした拷問のようだ。どうせ自分の身体じゃないから見られるのはどうってことはないけれど、自分で自分の身体を見てしまうのが不愉快だった。
できればあまり見たくはない。
けれど、やはり気になり、鏡に写った傷を見た。
ひょろりとした白い背中に、赤い線がくっきりとのびている。
日本刀で袈裟掛<けさが>けにばっさり斬られたら、こんな痕が残るのではないかというような、見事な傷だった。
見事過ぎて暫<しばら>く言葉を失って見入ってしまったくらいだった。
しかし、他人が見たらこのイビツさは不愉快だろう。
自分は嫌いじゃないが、銭湯とか温泉には行きにくいかもしれない。
少し、子供に同情し同時に自分の身体も似たような事になっているんだったとため息が出た。
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