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「分からないの?」
「いいから、自分の病室に帰りなさい」
和美のスネを蹴って、「この節穴が!!」と叫び走り出していた。
何かを探すように、時計を見て、窓の外を見た。
何時も母がくる中庭の道、後一時間もするとやって来るだろう。
毎日見ながら、話し掛ける事もできなかった。
母に会いたい、話したい。
もう嫌だ、もう堪えられない。
中庭に出ると、ベンチに座り靴を脱いで膝を抱えた。
ぐらぐらする心と頭。
たいしたことない、たいしたことないと、歌を口ずさむ。
こちらへ来る母の姿を見つけた時、堪らず泣きながら走り出していた。
「お母さん!」
しがみついて、大泣きした。
子供の身体のせいか、激しく泣くと鳴咽<おえつ>が止まらなくなった。
背中を温かい手の平が上下に優しくさすってくれていた。
「お母さん、私だよ、晴子だよ、分かるよね!!」
「お母さんに会くなっちゃたのかな?」
「違うよ、補聴器は?」
母は耳が悪く、補聴器をしていても、人の半分くらいも聞きとれない。
「私、晴子だよ、私だよ、お母さん、分かるよね!!」
母は首を振り、バシバシと頭を叩いた。
母が小さい動物や子供によくやる、愛情表現だが、今の状況には相応<ふさわ>しくなかった。
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