478人が本棚に入れています
本棚に追加
ベットに押し戻され、身体中から延びたチューブを見た。
腕からの管は点滴か薬剤、そして脇腹からのは排泄用だろう。
勘弁してよ~、嫁入り前なのに。もはや、会社に行ける状態じゃない事が分かると、再び眠気が襲ってきた。
目を覚ますと、見知らぬ女の人がいた。
疲れた黄色い目をして、心配げに見つめている様子に、不審感を覚える。
いったい、この女性〈ひと〉は誰なのかな。
私の両親は、どうして側にいないのだろう。
「アーアー」
しゃがれた声が出た。
何とか、声をならし、やっとのことで「どちら様ですか」と尋ねる事が出来た。
でも、やはり自分の声には聞こえなかった。
「京〈きょう〉、お母さんよ」
「はい?」
「目は見える?
ぼんやりしているんじゃない?
ずっと眠っていたから、光に馴染んでいないのかしら」
「いえ、見えてますけれど」
「よかった、京、何も心配しなくていいからね、お母さんは京の味方だからね、ゆっくりでいいから、一緒に頑張って怪我、治しましょう」
ゆっくりだが、強制的な物言いに苛立ちを覚える。
第一こんな母親を持った覚えはなかった。
もしかして、別病棟から抜け出してきた、誰かの母親だと思い込む妄想にとりつかれた女性なのではとも思え、全身が粟だった。
よりによって、こんな身動きの取れない時に。
警戒し、女の顔を見返していると個室のドアが開いた。
「母さん、京起きたの?」先に目を覚ました時にいた、あの若い男だった。
最初のコメントを投稿しよう!