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「はあ?」
「やべえ、ドキドキしてきた」
男は興奮したように唾を飲み込んで、本性とも思える意地の悪そうな双眸を輝かせた。
「あんたさあ、まだ、ククク、鏡見てないんだ、アハハハハハ」
「何?」
何なのこの人?
ちょっといっちゃってるんじゃないの?
不審な視線に気付いて、男は笑い顔をおさめると「ちょっと待ってな」と部屋を出て、折りたたみ鏡を手に戻ってきた。
「ほら」
何を見せたいのか分からないが、とりあえず目の前に広げられた鏡を覗き込んだ。
「ん?」
鏡が震えてブレる。
動かさないでくれる?と視線を投げかけると、男の押し殺した笑い声が聞こえた。
まだ笑っているのか、どんだけ笑い上戸なんだよと思いつつ、視線を鏡に戻す。
鏡が動いているのと、欝陶しい前髪のせいで自分の顔がよく見えない、が、これは、「あれ?」
最初にあの子供を見た気がしたのが、やはり勘違いではないようだと思えてきた。
「あーあー、本日は晴天なり、本日は晴天なり」
「オヤジかよ」
「誰、この子供」
「それが、今のあんただ」
「あの時の、飛び込みの子供だよね、あっ、そっかぁ、あの時の事故で私とこのちんけな子供が入れ代わったんだね」
「ちんけとか言うな、俺の弟だ」
「冗談だよ、そんな事有り得るかっての、なにこれ、新しい手品グッズ?
ちょっと、ちゃんとした鏡持ってきてくれない?」
「そのうちいやでも分かるよ。
いや~、笑わせて貰った、じゃあ俺嫁のところに行くわ」
いや、これはアレだ、どこかにカメラが仕掛けられている、質の悪い悪戯だ。
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