ラブフィニティ

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牙こそ見えないが、狂犬のような獰猛な目はいまにも手に喰いかかってきそうだった。 「起しに来てやっただけだろう」「それがウゼエんだよ。 お前の弟じゃねえんだから、かまうな」 「弟じゃない?」 都が言葉じりを拾うのを聞いて、キョウは心が冷えていくのを感じた。 キョウの翳〈かげ〉った瞳を気にした瞬間、都は左頬にキョウの拳をくらってよろけた。 「いや、俺、お前の弟だったわ」キョウは追い打ちをかけるように、足を上げる。 「兄貴、頼むから出てってくれ、そんで、出来るだけ早く死んでくれ」 「れ」と同時に蹴りだした足を避け、体当たりと同時に床に崩れたキョウの上に、都が馬乗りになった。 キョウは右腕の上に乗っかった都の膝の重みに顔を顰め、一度治まりかけていた怒りを再発させ、顔を朱ばしらせた。 「どけ、殺す!!」 「口切ったぞ、まったく滅茶苦茶するなよ。 おい、またこれ増えてるな」 都は先の仕返しのように、キョウのピアスを引っ張った。 「痛ってえ、な!!」 「こんなに穴を開けてどうするんだ、似合ってないぞ、せめて数を減らせ。 それに、髪もいつの間にこんなに白くなったんだ、どうせ三四十年もすれば、ほっておいても白くなるんだ、もとに戻しなさい」 「うっぜえ、うるさいんだよ、俺が俺の体をどうしようと勝手だろうが! 俺も、お前が似合ってない髪型してようと、ケミカルWGとか穿〈は〉いていようと何も言わんよ、興味ねえし。 だから、お前もいちいち構うんじゃねえよ」 「目をつぶれる範囲じゃないだろう、ここまできたら。 それに、俺がお前を構うのをやめるわけにはいかないんだ」 「ああ、そうかよ、とにかく退けよ。 いつまでも、上から喋ってんじゃねえぞ」 「心配なんだよ、お前は何も話さないし、頼ってもくれない。 俺の、俺たちのせいなのに、お前は、あれから、何も言わないのは、どうしてなんだ。 お前の中で、もうケリがついているのか? それともまだ苦しんでいるなら、俺は何だってするつもりだ」 「だったら放してくれ」 「ダメだ」 「はあ? なんでもするって言ったじゃん」 「放したら、逃げるだろ。 お前、俺が話そうとすると、すぐに逃げるからな」 キョウは胸のムカつきを放出するような溜息を吐いた。
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