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「お前にとって俺は何だ?
この体は、お前のワイフのスペアだとでも思っているのか?
言っとくけど、俺はもう北川晴子じゃねえし、あいつとは完全に切り離された存在だ。
頭頂の髪一本から、足の先の爪まで全部、これは俺の体だ」
「わかっている」
「わかっているなら目を背けてろ、俺はお前に人権を蹂躙〈じゅうりん〉された被害者だ」
「自分の罪から目を背けるわけにはいかない、それに俺は、キョウ、お前のことを……」
「好きだったんだ」
「キョウ?」
キョウは都の肩をぐいと押しのけ、身を起こした。
「俺さ、お前のこと最初見たとき、性格悪そうだけれど、ちょーカッコいいって思ってた。
そんで、この家に来て、一緒に暮らしてみたら結構いい奴だってわかって、でも、好きになったりしたら地獄だろう?
だから俺は、お前を好きになることだけはしないって決めたんだ。いまじゃ、和美よりも本当の兄弟みたく思えるよ、なんかウマがあうしさ。
俺、あの弟(和美)とは気が合わなくてね、あいつはグズでガンコで要領が悪くて、お前の弟(京)に似てるな。
あのまま和美と姉弟続けてたら、いつか殺してたかもな」
「キョウ、お前は今の自分で納得しているのか」
「お前に答えたくねえ、何故ならお前を楽にしてやりたくねえからな」
「俺は……」
「でも、俺、お兄ちゃんってのが欲しかったんだよ。
昔から年上の兄弟に憧れててさ。だから、まあ、これからもこの世でたった二人の兄弟ってことで、小遣い多めでよろしく」
キョウは全てを見透かして、そしてこちらにその事を言わせないかのように話を切り上げ立ちあがった。
『お前のことが好きだ』
そう出かかった、喉もとにあるその一言を、永遠に封じるように。「いつまで俺の部屋に居座るつもりだ、立てよ」
差し出された手を取って、たち上がる。
ゆがんだ口元が近づいたかと思った瞬間、前頭葉に光が炸裂〈さくれつ〉した。
キョウは自らの額を押さえつつも、してやったり顔で「隙見せてんじゃねえよ、兄弟ってのは殺るか殺られるかだぜ?
アベルとカインの時代からそう決まってんだよ、そんで、アベル同様、お前は弟のこの俺に殺られんだよ」とニカッと笑った。
そんな顔が出来るならいいか。
都は頭突きを食らった額を押さえる。
安心や寂しさやその他の感情が混淆〈こんこう〉とする。
都は、この幼い家族は、まだしばらくは自分のものだと、塞ぐ気持ちを取り払った。
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