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「お構いなくと言っておいてなんだけど、ソウちゃん、俺お腹がすいた。
夕飯食べて来なかったから、オロCとカップラ買ってきて」
「なっ、パシリですか、この格好で私に、外に買い物に行けと? ドSですねキョウ君、非常に燃えます」
「ああ、ごめん格好のこと忘れてた、それじゃあ無理だね、俺行ってくるわ」
「いえ、私に行かせてください、私が行きたいです、それに、ついでにドラックストアに寄って、買っておかないといけないものもありますし」
窓子の意味ありげな微笑にキョウは細い息を吐いた。
「ソウちゃん、俺十三だよ?
酒も女も嗜〈たしな〉まんよ」
「あらら、大人のギャグでキョウ君の顔を真っ赤に俯〈うつむ〉かせたかったのに、軽くあしらわれちゃいました」
「ギャグ、だったんだ……」
(本気かと思った)
キョウはサンタ衣装の上にコートを羽織って出ていく窓子を店先まで見送り、冷えた店内のケースの中に、黄昏を閉じ込めたようなトパーズを見つけ、忘れかけていた感傷を呼び起こした。
白い空から、灰色の点が降ってくる。
「雪か」
「何か言ったっすか?」
齧歯〈げっし〉類のような顔の男が、赤い鼻を啜〈すす〉りながら聞いてきた。
「何でもねえ」
視線を網と鉄格子の嵌〈は〉った窓から、鉄塊の移動機内に移す。
窓から射す明かりだけでの光源では、輪郭を捉えるだけしかできないが、十数人の男がそこに在るのは分かる。
生きている者、そうでない者。
「それ、女の写真?」
向かいに座ってる男と、その隣の奴の会話が聞こえる。
「ああ」
「お前の女?」
「違う、おふくろの写真だよ」
「マザコンかよ!!」と嘲笑ってみせる。
「おふくろ、足と右腕が悪いんだよ、それに耳も遠いし。
俺が帰るまで、だれが面倒みてくれてんだろうかと、そればっかりが気になってね。
でも、こうしてやっと無事に戻れる。
早く、おふくろの助けになりたいんだ」
「へっ、こうして生きている奴はどいつも、卑怯で卑劣で誰より多く人を殺した勝者だろ、いい人間ぶんなよ」
「そうだな、でも俺は戻りたい。早く、戻りたいんだ」
執念のようなものをその言葉に感じた。
また、窓の外に目を向ける。
光?
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