ラブフィニティ

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「ごめんなさい、貴方に死んでいるなんてことを言わせて。 でも、貴方は少なくとも俺にとっては生きている人だ。 だから……怖いんです」 キョウはその強い眼差しから逃れるよう顔を背け、ハンガーに吊るしてあった自分のダウンを着ると、陽一郎と亮の間をすり抜けた。「帰ります」 「ちょっと待って、えっと、俺帰るから、陽一郎達の話をもっと聞いてやってくれないかな」 慌てて引き止める亮を見ることもなく、キョウは上がり框〈かまち〉まで行くと靴を履いた。 「また来ます」 キョウは、二人を振り返ることなく言った。 「おい君! ああ、陽一郎、追いかけて引き止めたらどうだ。 もしこのままになったりしたら、マドちゃんに恨まれるんじゃないのか?」 「当たり前だ、このままにはしない。 けれど、今は混乱しているようだし、そっとしておいた方がよさそうだ」 冷たくさえ思える陽一郎の冷静さの裏に、亮は長い付き合いから、その言葉にはしない言葉を感じ取り「お前がそういうなら」とそれ以上口を出すのをやめた。 飛ぶ夢をよく見る。 飛ぶといっても、鳥のように大空を縦横無尽に滑空するのではなく、浮いているに近い。 地面すれすれを、今にも顔を擦りそうになりながら歩くのと変わらない速度で浮遊している夢。 よく考えれば、昼間歩いている時の記憶を、その視覚でとらえた映像を再現しているだけなのかもしれない。 ただ地面ばかりが、視野の中を川のように流れていく。 今も、あの夢のように、地面ばかり無心に見ていた。 歩道が途切れた段差のところで、ようやく、帽子やマフラーを忘れたことに気付いた。 (戻りたくない) 目が痛いのは、温度差のせいばかりではないだろう。 今にも、胸につかえた何かを押し流すように涙が零れそうになるのを堪えて、視界が霞む。 (なんで泣きそうなんだ?) 窓子のことを好きだと思った。 優しくて、楽しくて。 あの日、事情も知らない窓子が、自分と都の間に入って、自分を守るように庇ってくれた。 あの毅然とした態度にとても安心した。 優しさだけじゃない、あの強さが、あの背中が忘れられなかった。都が引きさがってからも、窓子は、事情を聞かずに付き添ってくれた。 怪我した鳥を救うように、ただ手当と居場所と温かさをくれた。 大好きになっていたのは、いつもその瞳の中に探していたのは、窓子じゃない、陽一郎だったんだ。
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