ラブフィニティ

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(なんて、ややこしいことになってるんだよ。 ややこしいのは自分一人で充分なんだよ! ああ、なんだよ、橘京として生きると決めた矢先にこれだ。 結局心は晴子のままなんだ。 だからきっと彼を好きになったりするんだ。 自分みたいなのが人を好きになったりするから、こういう目にあうんだ) 「ちぇ、つまんねえな」 呟く少年の声。 窓子の人格の一側面だったらどうんなによかっただろう。 陽一郎が彼女の狂言なら、陽一郎を好きでもよかったんだ。 だが陽一郎と窓子は別の人間だ。陽一郎が自分と同じ不安定な存在であると知って怖かった。 何の前触れもなく消えてしまったらと思うと、縋りついて泣きたいくらいどうしようもなく不安になって、胸が塞〈ふさ〉いだ。 会って間もないのに、晴子の時はどんなに探しても、こんな思いをさせる人間はいなかったのに。 なんでよりによって今の自分で。 (大丈夫、得意だろ? 自分の気持ちを殺すのは、慣れている) 好きになってはいけない人は好きにならない。 自分のことを好きになってくれない人は好きにならない。 望のない人は好きにならない。 そうやって芽生えた好意を、沢山の心を殺して、捨てて来たんだ。何事もなかったかのように、自分の心の残骸の上を、平坦な道を歩くように、草も木も花も何もない平和な砂漠を歩いていたんだ。 「できる」 掌を握ったり開いたりして、どうしたいのか分からないで、両手で前髪を鷲掴む。 (はは……感謝します、この素晴らしいクソったれな世界を!!) 衝撃があった。 目の前が真っ暗になり、気付くと自分の力とは関係なく体が持ち上がっていた。 身の危険を感じ、状況を把握しようと、オチかけた意識を吐き気を堪えながら留〈とど〉める。 「おい、人違いだったらどうすんだよ~」 「いや、こいつこいつ! 間違いねえって、この金髪。 なあ、中村?」 耳元で声がし、目を開くと目の前に見覚えのある茶髪の鷺高生の顔があった。 襟首を掴みあげられた状態と、首の裏に感じた衝撃から、茶髪に首の後ろに、とび蹴りをくらわされたのだと理解する。 「おお、こいつだよ、間違いねえ、えらい美人だったからなあ、忘れねえよ」 キョウは思わず咽〈むせ〉る様に吹き出し、掴んでいる中村という茶髪の少年の腕を揺らした。 「ウソつけよ、コワくてコワくて、俺のことが忘れならなかったんだろ?」 耳孔を介さず、自分の肉がたてる、殴られた音を聞いた。
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