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「ねえな、買ってくるか?
すぐそこのペット用品店で」
「いや、ないならいい、あれやっから」
中村はバイク用の手袋をはめると、小石を拾って拳の中に包み込んだ。
「アレか、そーとう、そいつのこと気に入っちゃってんだな」
「まあな」
中村は石を握っていない方の手でキョウの顎を掴んだ。
「さ~て、二三本もらっとくわ、そんで、無くなったものを見る度、俺のことを思い出してくれよなあ」
腕が振り上げられる。
垂直に顎めがけて振り下ろされた拳が狙いをはずし、すでに血で汚れているキョウの頬をかすめた。
キョウは身を捩って中村の攻撃を避け、そのまま歯を折られないよう地面に伏した。
「あらあら、だめだよ患者さんが逃げちゃあ」
傍観を決めこみ、停めてあった持ち主の分からない自転車のサドルに座っていた島田は、それから飛び降りた。
もう一人の少年と共に、地面にしがみつくようにしていたキョウをひっくり返して仰向かせると、二人がかりで押さえ込む。
「ほら中村、お医者さんごっこの続きだ。
ボク、中村歯科医院は麻酔なしだそうだから、痛くて泣いちゃうかもよ~」
「もう少し殴ってやったら、麻酔の代わりになんじゃね?」
両手足を地面にぬいとめられ、キョウはニヤつく中村の顔を超然と眺めた。
ここまでしても、まだ怯えた顔をしないふてぶてしさが、そのすかした顔がいつ崩れるのかと、少年たちは好奇心に駆られていた。
「あ~あ、綺麗な顔がもったえねえな」
「止めんな、早くやれ、中村」
二人には見えない、間直から見るキョウの目の奥の怒りに、一瞬身の竦〈すく〉んだ中村は、そうと気付かれないよう、息をのみ込み腕を再び振り上げた。
「すいませ~ん」
こちらに呼びかける声と同時に、自転車が吹き飛び、壁にぶち当たって倒れた。
倒れた自転車のホイールがカタカタと鳴り、三人は瞬時に腰を上げた。
「それぐらいにしといたら?」
「はあ?
何だよ、こいつの知り合い?」
「あんた達さあ、人の家の前でギャアギャアはしゃぎ過ぎなんだよ、住人として苦情を言いに来たんだけどぉ。
まだ続けんなら、通報するよ?」
一番大きい中村と同体格くらいの少年が、突っ込んでいたポケットから携帯を取り出して開いた。
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