ラブフィニティ

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同時に後方から甲高い女性の悲鳴がして遠ざかってゆく。 どちらにしても、人が集まり出すのは避けられなくなったと踏んで、三人はキョウを放した。 去り際にキョウを蹴ろうとした中村を、近隣住民だという少年が張り倒した。 「なにすんだてめえ!!」 「さっさと退散した方がいいんじゃねえの? それともお巡りが来るまで俺が相手してやろうか?」 「なんだよ、てめえ、どこの高校だ?」 「学校が関係あんのか? 鷺〈さぎ〉だか鴇〈とき〉だかしらねえけど、来るってんなら人集めとくぜ? 俺とやんなら戦争覚悟しとけよ」 腹底に響く低い声と、暴力を目の当たりにして動じない態度が気味悪く、留まる中村を他の二人がせっついてその場を立ち去った。 キョウは地面に転がったまま、自分を助けてくれた者を見上げた。「お前は悪目立ちが過ぎんだよ」見知った風な口をきく少年を見ながら、キョウは吸気を喉に詰まらせた。 上半身を抱えられ、顔を下に俯かされると、歯を押し開けられ、喉に指を入れられた。 キョウは堪らず嘔吐〈えず〉くと、血の塊を吐き出した。 「貴方はお医者さんの卵かなにかの……」 少年がフェイドアウトしていく声に慌てて体を支えた時には、すでにキョウは意識を手放していた。「橘さん、橘さん」 名前を呼ばれて目を開けると、真上から声が降ってきた。 「あっ、目を覚ましましたよ、ほら、橘さん大丈夫ですか?」 キョウは自分を覗き込む少女を見上げ、少し考えて「ああ」と思い出して名前を呼んだ。 「久しぶり、元気だった? 相変わらず可愛いね蓮池さん」 「お前は、相変わらずバカだな、まず自分のことを心配しろや」 横に目を向けると、精悍な顔立ちだが、ぶっちょう面のガタイのいい少年が、呆れたように言った。「ああ、助けてくれた人。 ありがとう、ずいぶん勇気があるんですね、見ず知らずの僕なんかのために、本当助かりました」 キョウは目を輝かせ、起き上がろうとするが、すぐに少年に、寝かされていた布団に押し戻された。「まだ起きるなってさ、ところで、お前冗談だよな? それともまた記憶喪失なのか? 蓮池のことは覚えていて、なんで俺のことは忘れてんだよ」 「ん? いや、高校生に知り合いなんていないし、僕」 「いえ、橘さん、高校生じゃありませんよ、滝田君です」
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