ラブフィニティ

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「去年の今頃、スキー教室でのやつだよ」 「スキー教室で何かしたっけ?」滝田は舌打ちをして、背後の畳に手をついて胡坐〈あぐら〉の体勢を崩した。 「なんだよ、全部言わねえと思い出せないのか、お前はジジイかよ、その髪は染めたんじゃなくて地毛か?」 「なんだとゴリラ、ズラーシアに一頭逃げて来てますよって電話すんぞ」 「うるせえよジジイ、死にかけてんだから大人しくしとけって言ってんだろ、じゃねえと完全に沈黙させんぞ」 「あっ、あの、私も仲間に入れてください!!」 「は?」と二人が間の抜けた声を上げて蓮池を見たとき、蓮池とは違う高い少女の声が響いた。 「お兄ちゃん、彼女が来てるって本当?」 フェルトのミニスカを翻しながら、蓮池より背の高い少女が、仏間で臨終を看取る親族のようにキョウの左右に座っている蓮池と自分の兄を見比べてニヤニヤと笑う。「その人」と少女が蓮池を指して何かを言い掛けるのを、キョウが割り込むように「キョウ子でっす、初めまして。 お兄さんとは清く正しく、そして時に激しくお付き合いをさせていただいていまっす、って、痛ってえなあお前! 次俺様の頭頂部に触れたら、お前の名前で鷺高に願書出すよ、マジで!」と言った。 「やれよ、お前のも出しといてやるよ二人で鷺高の天辺とるか?」 「上等だよ、頂点でもなんでもとってやるよ! ただしお前は俺の下位だから、二位ってとこだな、鞄持ち君。 毎朝俺の靴磨かせてやるよ」 「はあ? なんだとテメエ、何言ってんのか全然分かんねえ」 「分かんなくて構わねえよ、ゴリラがそんだけ喋られれば大したもんだ」  「おじゃましています、滝田君と同じクラスの蓮池です」 二人をよそに蓮池は、快活そうな妹に挨拶をした。 「それの妹の夕海です。 お兄ちゃん喧嘩はよしなよ、その人怪我してるんでしょ」 「そうなんす、この凶暴ゴリラ俺にじゃれついて来て……」 キョウは滝田の叩いてこようとする手を避けて転がり「グッツ」とうめき声を上げた。 「ッツ、死ぬ」 「死んどけ」 滝田は呆れたように言い、立ち上がろうという姿勢を見せ、片足を立てた。 「蓮池、もう大丈夫だろうから、遊びに行って来いよ」 「そうですね、あまり騒がしくてもいけないですね。 橘さん、私はこれで帰りますから、もう喧嘩しないで下さいね」
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