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「そうしろって親がうるさいんだよ。
仏間で夜お前一人寝かせとくのは可哀想だってさ。
別に出たりしねえつうのに、子供じゃねえんだからさあ。
放っておけっつったら、上のと下のが代わりに寝るって聞かねえしよ、お前のこと美少年だって、笑える」
滝田には夕海以外にも年上の兄弟がいるらしい。
「じゃあ、笑え」
キョウは蒲団から取り出した猫を滝田に押し付けて、肩を回した。「なんだ、こいつお前が持ってたのか」
「俺、猫大好き、こいつチョーひと懐っこくて可愛い。
またお前の家に遊びに来るわ」
「そうかよ」
滝田はキョウの横三十センチくらいの所に蒲団を敷き終えると、キョウを見下ろし、何か思い出した様子で部屋を出て戻ってきた。
「これ」
キョウの枕元に座り、ハンカチを手渡した。
「なにこれ?」
「返す」
「貸してたっけ?」
「前に、俺がこれで鼻かんで、お前がもういらないって押しつけたやつだ」
キョウは伸ばしかけた手を布団の中に引っ込めて、半眼で滝田を見つめた。
「ちゃんと洗ったから、それに使ってなかったから大丈夫だ」
「今日のお礼に、正式にお前に授与いたす」
「そっか、なら貰うか。
お前から取ったみたいだったから、気分が悪かったんだよ」キョウはわざとらしく目頭を押さえながら「一年前まで弱い者から金を巻き上げようとしていたお前が、成長したなあ」と感動したように言った。
「うるせえ、電気消すか?」
「ああ、消して、俺明るいと熟睡できない」
滝田はキョウに言われて明かりを消し、自分の布団に入った。
輾転反側〈てんてんはんそく〉としてなかなか寝付けないでいる様子の滝田に、キョウは鬱陶しげに「眠れないなら、自分の部屋に戻れば?
俺一人でも、べつに恐いとかないし」と話しかけた。
飼い猫に枕を占領されながら、滝田は「気になる夢を見るんだ」と言った。
「夢? お前が? 動物も夢見るって本当なんだな」
「おい!!」
「わりい、寝るのが怖くなるような悪夢なのか?」
「まあ、ある意味な」
「ふ~ん、俺は高いところから落ちたり、地面ぎりぎりを飛んでたり、疲れてるとそういうのをよく見るけど、お前はどんな夢をみんの?」
滝田は猫から枕を取り返し、天井を仰ぎながら「お前の夢」と言った。
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