ラブフィニティ

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「ノン、逃げたんじゃなくて、花嫁修行! まずは、こうして小舅と親睦〈しんぼく〉を深め、小姑、舅さん、姑さんとレベルを上げていくのですよ」 「ババアはラスボスか」 「慧斗、ババアはだめ。 大切なお母さんに向かって敬意を持たないのは恥ずかしいよ」 叱られてムスっとする滝田を見てキョウはおさまりかけていた笑いをぶり返し、クウッと呻〈うめ〉き声を上げた。 「橘、お前笑い過ぎだ」 「お前が笑わせてんだ! 笑うと痛てえっつーの、俺を殺す気かよ!」 「テメエが勝手に笑ってんだよ、ところで、もういい加減、縄を外せよアナ」 「ユーは、日本語の美しさを知るべきです。 宿題にするので、そのままその事を考えていて下さい。 ほな、さいなら」 アナは立ち上がると、キョウに袖をヒラヒラさせてほほ笑み、そのまま出て行ってしまった。 「橘」 「なーん?」 「外してくれ」 「そんなの、身を捩れば解けんじゃね? テンコーになった気でやってみろよ~」 「むりだ、結び目が何処かもわからねえし、あいつ、こういうのスゲー凝るんだ。 簡単にはずせるようには結んでねえって!」 語気を荒らげる滝田に背を向け「ふーん」とキョウはだるそうに言い、目を閉じた。 「おい、何また寝ようとしてんだよ、解いてから寝ろよ」 「うん」と言いつつ動かなくなったキョウの背に、滝田は焦って声を掛け続ける。 「起きろよ、寝んな、ってか寝かせねえ、ジジイ、起きろ!!」 「うん」 「ジジイ!!」 「うん」 「ハ~ゲ」 「うん」 「お前、俺のこと好きだろ?」 「……お、お兄ちゃん、何言ってるの? まさか本当に王子と付き合ってるの? 信じられない、お母さん、お母さーん! お兄ちゃんがキモイ~」と遠ざかっていく夕海の足音に向かって「ブス!! 縄を解いていけ!!」と滝田は叫んだ。 ボクが今と定義するその瞬間に存在する地球上の人間に、順位をつける。 心のきれいな順に並んだらボクの場所はどの辺かな。 半分より上、それとも下、どうなんだろう。 ボクは盗んだことも人を殺したこともないよ、それって心がきれいってこと? でもボクは心の中で人を殺した。最初に殺したのは誰だったかな。
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