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ボクは人が怖い。
人の心が怖い、心の変化を映す目が怖い。
だけど、その瞳を閉ざして横たわる死体なら怖くはないんだ。
だから、ボクは殺す。
好きな人も嫌いな人も、周りの人を次々と殺したから、ボクの足元は死体だらけだ。
ボクはその遺体を埋めてやる。
そして碑をたて墓をつくる。
殺すよりも墓をつくる作業が好きだ。
頭の中で殺した誰かのために土を掘り、埋めて土をかけてやる。
母親が子に掛布をあててやるようにそっと。
そうすると物言わぬ誰かにとって、ボクは特別な存在になれる気がするんだ。
でも、最近は一人しか殺していない。
いつもいつも、その一人だけを殺し続ける。
何度殺し続けても、教室に入ればそいつは気に食わない顔でそこにいる。
川本を好きになったのは、けして心が変わらないから、けしてボクを見ないから。
そして川本が好きな奴をボクは毎日土に埋める。
誰よりも沢山の墓を持ったそいつと、廊下ですれ違う。
青白い顔。
まるで幽鬼のように、いつもと違う表情が気になった。
そいつは響く予鈴が聞こえていないかのように、教室ではなく階段へと向かい、上っていく。
(どこへ行くんだ?)
気になりながらも、教室に入ると、川本の怒声と啜り泣く女子の声が聞こえた。
人だかりの中にいる青い顔をして立つ夏海の手には、雑誌が握られている。
あいつに関わりのあることだろうと、夏海に声を掛ける。
「橘がなんかやったの?」
「えっ、あれ、橘は?」
「なあ、何があったんだよ」
夏海は渋い顔を向けてくる。
言いたくない様子で、問いをそのままやり過ごす空気を感じ癇癪〈かんしゃく〉をおこしかけると、杉岡が夏海の手にしていた雑誌を取り上げて開いた。
「おい杉岡」
「どうせ、クラス中見てんだ、篠崎にも見せてやんないと、逆に可哀想だろ光実」
女性向けファッション誌の、角の折れたページが目の前に広げられ、杉岡が指をさす箇所に目を落とす。
「ルーマン」と題されたコラムの上に、葉書を横にしたくらいの大きさの写真が掲載されている。
わざと露出をオーバーさせたような全体的に白く薄いその写真には、半裸の少年が羽根布団を抱え眠っている姿が写っていた。
写っているのは背中と横顔だが、それは橘だと思えた。
金髪に連なる黒いピアスも冬休み前の橘の特徴と合致している。
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