ラブフィニティ

33/45
前へ
/560ページ
次へ
ボクは人が怖い。 人の心が怖い、心の変化を映す目が怖い。 だけど、その瞳を閉ざして横たわる死体なら怖くはないんだ。 だから、ボクは殺す。 好きな人も嫌いな人も、周りの人を次々と殺したから、ボクの足元は死体だらけだ。 ボクはその遺体を埋めてやる。 そして碑をたて墓をつくる。 殺すよりも墓をつくる作業が好きだ。 頭の中で殺した誰かのために土を掘り、埋めて土をかけてやる。 母親が子に掛布をあててやるようにそっと。 そうすると物言わぬ誰かにとって、ボクは特別な存在になれる気がするんだ。 でも、最近は一人しか殺していない。 いつもいつも、その一人だけを殺し続ける。 何度殺し続けても、教室に入ればそいつは気に食わない顔でそこにいる。 川本を好きになったのは、けして心が変わらないから、けしてボクを見ないから。 そして川本が好きな奴をボクは毎日土に埋める。 誰よりも沢山の墓を持ったそいつと、廊下ですれ違う。 青白い顔。 まるで幽鬼のように、いつもと違う表情が気になった。 そいつは響く予鈴が聞こえていないかのように、教室ではなく階段へと向かい、上っていく。 (どこへ行くんだ?) 気になりながらも、教室に入ると、川本の怒声と啜り泣く女子の声が聞こえた。 人だかりの中にいる青い顔をして立つ夏海の手には、雑誌が握られている。 あいつに関わりのあることだろうと、夏海に声を掛ける。 「橘がなんかやったの?」 「えっ、あれ、橘は?」 「なあ、何があったんだよ」 夏海は渋い顔を向けてくる。 言いたくない様子で、問いをそのままやり過ごす空気を感じ癇癪〈かんしゃく〉をおこしかけると、杉岡が夏海の手にしていた雑誌を取り上げて開いた。 「おい杉岡」 「どうせ、クラス中見てんだ、篠崎にも見せてやんないと、逆に可哀想だろ光実」 女性向けファッション誌の、角の折れたページが目の前に広げられ、杉岡が指をさす箇所に目を落とす。 「ルーマン」と題されたコラムの上に、葉書を横にしたくらいの大きさの写真が掲載されている。 わざと露出をオーバーさせたような全体的に白く薄いその写真には、半裸の少年が羽根布団を抱え眠っている姿が写っていた。 写っているのは背中と横顔だが、それは橘だと思えた。 金髪に連なる黒いピアスも冬休み前の橘の特徴と合致している。
/560ページ

最初のコメントを投稿しよう!

478人が本棚に入れています
本棚に追加