プロローグ

5/17
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
2004年 秋 あんなにうるさかった蝉が鳴き止む頃。相変わらず俺は病院にいた。 もちろん、ずっと入院していた訳じゃない。出たり入ったりの繰り返しだった。 先月には、初めて手術ってのも経験した。退院後は、原チャで5分の距離を通院もした。 それからも、入院、退院、通院、入院を小刻みに繰り返して… PETだかイレッサだか知らないけど、気付けば、その繰り返しで数々月が経とうとしていた。 食欲が減った代わりに、貰う薬の量と種類が増えた。 自分でも、目に見えて体力が落ちてきたと実感できる。足が細くなった気がするけど、”それは気のせいじゃない”と、体重計の針は教えてくれた。 なのに俺は…どこか客観的に自分を見ていた。 まるで他人事か、テレビの1シーンでも眺めているようだった。   突然、身に起こったことに、頭がついて行けなかった。リアルとして起こった実感が沸かなかった。 だから、自分自身のことの筈なのに、どこか遠い場所から冷めた目でしか見れなかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!