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「どうしたの」
「柳井さん、名前は?」
柳井さんがものすごく驚いた顔をする。聞いちゃいけなかったのかも。
「同じクラスなのに、覚えてなかったんだ…」
うわ、どうしよう。取り返しがつかないぞ。柳井さんが涙目だ。まだつかまれている腕に加わる、柳井の手の力が弱くなってきた。
「あ、えっと、柳井麻紀絵さんだ」
柳井さんの顔が、すっと上がった。そして、愛らしい笑顔を浮かべて、大きく頷いた。
「そうだよ。えへへ、わたしは柳井麻紀絵(ヤナイマキエ)。ちなみに部活は知ってる?」
よかった。柳井さん、笑ってくれた。当てずっぽうだけど。
部活はたしか…
「テニス部」
「正解っ」
よしっ。柳井麻紀絵さん、覚えとかないとな。
「じゃあ、行こ」
「待って」
柳井さんを引っ張った。まだ聞きたいことが…。でも後悔した。引っ張ったのは、階段のど真ん中だった。
「いやっ」
柳井さんは僕に被さる形になった。違う、僕が柳井さんをカバーする立場になった。
ガツン。さっきより重い一撃。脳みそを貫いたかと思える痛みが走る。
「ち、千秋く――やっ、血!?」
頭を手で触ると、手に赤い液体が付着した。頭、割れちゃったんだ。
辺りが次第に暗くなる。僕はかすかに聞こえる柳井さんの声を聞いていた。
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