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「ちゃき」
ちゃきと呼ぶのは、親友の光だけだ。だけどそれでも目覚め早々、光のツンツンした声を聞くのは堪えた。
「血はおさまったのか…よかった。本当によかった」
できれば、女の子の優しい声が聞きたかった。
柳井麻紀絵さん…麻紀絵さんの声は、ソフトで、聞いてて癒された。
「柳井、塾のテストだからって、こないんだとさ。塾のテストなんかよりも、ちゃきのほうが大事だろうに」
こないのか。ちょっと憂鬱だな。
「ちゃき?」
来たら、こんな寂しい病室、あっという間に華やかになるのに…。
「ちゃき!」
「はいっ」
改まってしまった。
「ちゃきがオレの言うことに反応しないなんて、初めてだぞ。どうかしたか」
「い、いや別に」
何を焦ってるんだ。どうかしてはいるが、それを表沙汰にすることはないだろう。
「恋か」
う…。
図星だ。だけど、それは隠したかった。過去形なのは、それができなかったから。ここでやっと気付いたのは、僕が秘密を隠しとおすのは不可能だ、ということ。
情けない声が病室にこだますると同時に、光は不気味な笑みを見せた。
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