一章:月平蘭子(21歳)の場合

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『 拝啓、炬(カガリ)先生。 お元気でしょうか? 随分とご無沙汰してしまっていますが、先生の方はお変わりありませんか? つい先日、教頭先生とお話する機会があって、その時に伺ったのですが、グラウンドの脇に来年の春へ向けて新しく音楽棟を建設しているそうですね。 私は音楽に関しては全くと言っていいほどの疎さなので、今ひとつ実感が沸かないのですが、高校時分吹奏楽部へ在籍していた友人へこの話をすると、目を丸くして感嘆の声を上げていました。 それにしても、進学校として名高いうちの学校が音楽棟の建設に腰を上げるなんて、そのこと自体にとても驚きました。 私が先生のクラスから卒業をして、もう三年が経つのですね。 先生、私は二十一歳になりました。 大学の方は昨年の秋からゼミへも参加して、今は卒論へ向けて研究室へ通う毎日です。 卒論のテーマはいろいろと悩んだのですが、複素力学を専攻しました。 院生も含めて四人の研究チームを作っています。 私の研究チームは、特にクラウン群の空間をテーマにしているのですが、院生の研究のお手伝いというのが私たち四年生の役割です。
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