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「寒い…」
そして時計の針が八時を指した頃、遥也は公園のベンチで一人そう呟いた。
撮影現場から少し離れた、人での少なそうな住宅地から少し外れた所にある小さなこじんまりした公園にいたので、人は誰一人としていなく、辺りは静まり返っていた。
風でゆれるブランコのギーコーギーコという錆がすれた音だけがやけに響いている。
遥也はそんな公園のベンチに座った後、疲れからかいつの間にかうたた寝をしてしまっていたようで、あまりの寒さに目を覚ましたのだった。
今は10月。
今年は毎年と比べて早くから寒くなりはじめているうえ、そんな場所で寝ていたらそうなるのは当たり前だ。
特に今日は、息をはけば白くなるし、厚い上着がなければやっていられないような寒さだ。
「もうこんな時間かぁ…。そろそろ戻るか」
そして遥也は独りでにそう呟くと、ベンチからゆっくり立ち上がって大きく欠伸をした。
ずっと下を向いていたせいで痛くなってしまった首を伸ばすために上を向く。
「…いい天気だな」
太陽は高く上り、雲の間から見事にに顔をだしていて寒いがかなり良い天気だった。
―――ヒュンッ
「っ?!な…」
しかしその太陽の光を遮るように一つの影が屋根をすごい速さで駆け抜けていった。
…猫かなんかか?
最初はそう考えた遥也だったが、影の大きさがおかしいことに気が付き、正体を探ろうと動態視力が良さを利用し、よく目を凝らして見た。
「……人間??」
そこで一つの答えが弾き出される。
それも遥也が見入ってしまうほどの美しさをもつ女性の姿。
遥也はその美しさに目を奪われ、寒さも忘れてその女性が通り過ぎるのを眺めていた。
通り過ぎた後も、何故かそこから動くことができなかった。
…これがこの二人の最初の出会いとなるのだった。
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